第5話 手厚いお迎え?



「狂おしいほどの感情を見事に表現されていらして、本当に素晴らしい演奏でした。ありがとうございます」


 ヴァイオリンの演奏が終わり、私は舞台袖で講演会で話をしてくれた講師とハグをしていた。


 私は穏やかな曲よりも、激情を表現した演奏に定評がある。

 これも全てエイドのおかげだ。

 私の奏でる音楽は、例えエイドが聞いていなくも全てエイドに捧げている。

 以前そのことをエイドに言ったら、『普通に重いです』と言われてしまったが……


「こちらこそ、学ぶことの多いお話でした。本当に感謝いたします」


 私もお礼を伝えると、「あなたとはまたお会いしたいですね」と言われ、私はルミナ王女殿下と共にお客様を見送った。


「ふふふ、終わったわね。やはりあなたに頼んでよかったわ。あなたがヴァイオリンを構えた途端に会場の空気が変わったわ……とても心に迫るいい音色だったわ」


「ルミナ殿下にそう言って頂けると私も嬉しいです」


 私はとにかく、演奏が終わったことにほっとしていた。




 そして学園が終わり、私は帰る準備を整えてルミナ殿下を王家の馬車までお送りすると自分の家の馬車の停まってる待機所に向かった。

 ちなみに侯爵家以上の家や一部の伯爵家以外の馬車はエントランスに入れずに馬車の待機所までしか入れない。

 私の家は子爵家なのでもちろん、馬車の待機所に向かう。


「姉さん!!」


「あ、よかった誰にも掴まってなかった……」


 弟のエラルドとジーノがエントランスの端で待っていたくれた。

 私は早歩きで二人に近づいた。

 本当は走りたかったが、令嬢たるものエントランスで走るわけにはいかない。


「ごめん、もしかして待たせた?」


 いつもは馬車の中で待っていたり、馬車の前で待っているので二人がエントランスにいることは珍しいことだった。

 私が焦りながら言うと、エラルドがにこにこと笑いながら言った。

 

「いや、今日は早く感想を言いたかっただけだよ。お疲れ様、演奏とてもよかったよ」


 エラルドがにこにこと笑いながら言った。


「ふふ、ありがとう。エラルド。さぁ、帰りましょうか」


「うん」


 そして、私たちは馬車に乗り込んだ。馬車に乗り込むと、ジーノが面倒くさそうに口を開いた。


「あのさ、今日姉さんのこと聞かれた。基本、何も言ってないんだけどさ……伯爵家のヤツ2人には聞かれたことを答えた」


 すると今度はエラルドが困ったように言った。


「僕も……アイバル侯爵家のハンス殿と、フール伯爵家のロイ殿には聞かれたことを答えた」


「え? 私のことを?? あ、ルミナ王女殿下の推薦だから気になったとか?」

 

 基本的に私のような子爵家は伯爵家以上の人に何かを聞かれたら答えなければならない。もしかしたら、私がルミナ王女殿下の取り巻きだということが知られてしまったのかもしれない。やはり王女殿下の威光は絶大だ。

 私は二人に向かって言った。


「迷惑かけてごめんなさいね……ありがとう」


 もしかしたら、学生主催のイベントの時に、私にルミナ王女殿下を紹介しろ、と言って来る男性がいるかもしれないと思うとげんなりしたが、家が見えるとそんなことは秒で頭から消えた。


(ああ、帰って来た~~~7時間と27分ぶりにエイドに会える~~~!!)

 

 私は馬車の中でそわそわしながら家に到着するを待ち、馬車が到着した途端に馬車を駆け降りた。そしてお迎えをしてくれた執事長に尋ねた。


「ただいま、ロック。ねぇ、エイドは?」


 執事長はにこやかに言った。


「今は、二階の書庫にいますよ」


「ありがとう~~」


 私は走って書庫に向かったのだった。

 

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