第4話 典型的な取り巻き令嬢
教室に着くとクラスメイトに声をかけられた。
「シャルロッテ様、ご機嫌よう。本日は謝儀としてヴァイオリンの演奏をされるのでしょう? 楽しみですわ」
「カトレーヌ様、ご機嫌よう。ええ、皆様のご期待に添えるように尽力いたしますわ」
あまり普段は話をしない方だが声をかけられた。
やはり私がヴァイオリンの演奏をするというのはそこそこ知られているようだった。
げんなりとしたが態度には出さずに席に座ると、しばらくしてルミナ王女殿下が登校されたので、「おはようございます。良い朝ですね」とあいさつをした。
同じクラスでもり生徒会長でもあるルミナ王女殿下は、以前テーマ学習で同じテーマを調べた時に話が合い、それから隣の席に座って授業を受ける仲だ。
私は現在、王女殿下の取り巻き令嬢といってもいいかもしれない。
おかげで無用な争いにも巻き込まれず、快適に学園生活を送っている。
「ふふふ、おはよう。シャルロッテ、今日はよろしくね」
王女殿下に微笑まれて、私はにっこり笑って礼をした。
「はい、ルミナ殿下。かしこまりました」
私が顔を上げると、ルミナ殿下が近づいて顔を寄せ、小声で言った。
「シャルロッテ、なぜ昨日のお兄様の婚約者候補を決めるお茶会に出席しなかったの? 私、あなたを推薦しようと思っていたのよ」
ルミナ王女殿下の兄とはつまり、この国の王太子殿下のことだ!!
参加するわけがない!!
エイド以外の男性の結婚相手に自分から志願することなど、万が一いや、億が一、兆が一でも有り得ない。
私は貴族令嬢の嗜みである憂い顔で答えた。
「子爵家のわたくしには大変恐れ多いことでございます」
――ないない。私はエイドという尊い生命の存在を知った時から、エイド一筋です!! 王太子殿下の婚約者に立候補するなんて有り得ません!!
……という不敬なことは言えないので、婉曲で返事をする。
ああ、言いたいことも言えない貴族令嬢って大変。
「ふふ、慎み深いのね。でもお兄様は『優秀なら身分は問わない』とおっしゃっているし、子爵家どころか男爵家の令嬢も参加していたのよ?」
婉曲表現の弱点。
それは――ずばり!! 遠回しに表現し過ぎたために、相手に意図が伝わらないことがある、ということである!!
「そうでしたか……私にはやはり荷が重いと感じます。申し訳ございません」
私は素直に謝罪をした。
きっと、王族の彼らからしたら王家に入りたくない令嬢がいると思わないのだ。
彼らは『みんな王家に入りたいでしょ?』と思っている。だから、私のように『王家になんて入りたくない!!』という令嬢がいることに気付けない。
だが、そうであっても何も問題はない。
王太子殿下の婚約者を決めるお茶会はすでに終わっているのだ!!
つまり今から王女殿下が何を言おうと『あ・と・の・ま・つ・り』なのでここは素直に謝罪する。
するとルミナ王女殿下が眉を下げた。
「謝罪をさせたかったわけではないの。ただ……身内になるなら、あなたがいいと思ったので、残念に思っただけよ。あなたを推薦するために今回の演奏をお願いしたのに……」
(あ……なるほど……普通ならこういう場合、ルミナ王女殿下が演奏されるのに、私にヴァイオリンを演奏させることに違和感を持っていたけど……王太子殿下の結婚相手に推薦するつもりだったのね……なんて恐ろしいの!!)
貴族令嬢怖すぎる。
たかだかヴァイオリンの演奏が、王太子殿下の婚約者候補の推薦に繋がっていたなんて!!
(こんなトラップある!? こわっ!! こわっ!! こわ~~~!! よかった、お茶会回避して、本当によかった~~!! エイド~~私、やったわ!!)
心の中でトラップを回避できたことに歓喜しながらも私は微笑みながら言った。
「光栄なお言葉でごでございます。これからも友人として殿下のお側に居させて下さいませんか?」
ルミナ王女殿下は嬉しそうに笑うと「もちろんよ。離さないわ」と言って笑ったのだった。
だが、このルミナ王女殿下の『王太子殿下の婚約者への推薦』のための仕込みが後に私を酷く苦しめることになるが……この時の私はまだそのことに気付けなかったのだった。
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