12話.薄氷を履むが如し
俺の正面にある水を魔力で強引に弾きながら前に進む。
長期戦に持ち込まれれば俺に勝ち目はない。この攻めで決着を着けなければ。
水の波を抜けると、そこには待ち構える様にグラフィンが立っていた。
「お、流されずよく耐え切れたの。」
「……伊達にセリルに鍛えられただけはありますから。」
「ほほっ、その威勢が何処まで続くか見物じゃな。」
またグラフィンの周りに多くの水弾が現れ、俺に目がけて飛んでくる。
しかし俺はその攻撃に怯む事なく、逆にグラフィンと距離を詰める。
俺は残っているほぼ全ての魔力を足に集め、一歩踏み出した時の瞬発力を強化させ……
「おおおっ!」
俺は地面を強く蹴り上げてグラフィンに接近し、一瞬で奴の懐に潜り込む。
…が、
「想定の範囲内じゃな、安直過ぎるわい。」
冷静に対処され、グラフィンは俺に水弾を三発飛ばす。
俺は放たれた水弾に
蹴った。
俺は前の訓練でグラフィンの水弾に当たって撃墜された時からずっと考えていた。
水弾を曲げたのは俺の行動を本当に読み切っての事じゃ無いのでは、と。
そしてさっきの攻撃で直線的に進んで来た水弾を俺が避けた瞬間に進路を変えた事により疑惑は確信へと変化した。
「曲がれぇぇ!!!」
グラフィンは恐らく魔力を水弾内部に微量入れて置き、それの精密な操作で水弾の向きを変えているのではないだろうか。
だとするならば……自身の魔力を入れる事さえ出来てしまえば俺が水弾を操る事は理論上可能の筈だ。
俺は水弾にありったけの魔力を一気に注ぎ込む。
「行っ…けぇぇぇ!!!!!」
渾身の力を込めて蹴り上げたその水弾は…………見事にグラフィンの方向へと飛んで行く。
「な、なんじゃ!?」
グラフィンも流石にこの事態には対応出来なかったらしく、飛んで来る水弾から咄嗟に身を守る為に魔法で水壁を出したが、そのお陰で数秒間俺への視線が途切れる。
俺はその隙を見逃さない。
俺はグラフィンの杖へと手を伸ばし、そしてその手は、グラフィンから杖を手放させた。
「俺の…勝ちです。」
グラフィンから杖が離れたと同時に、周囲の水が消えていく。
勝った。グラフィンに勝ったんだ。
薄氷の上を渡る様なギリギリの戦いだった。少しでも判断を間違えていたら俺は勝てて無かっただろう。
「まさか儂の魔法の性質を見抜き逆に利用されるとはな。こりゃ一本取られたわい。」
「…グラフィンさんもとんでもない強さでしたよ。」
「ほほほっ、そう言われると嬉しいのう。」
ああ、疲れた。もうヘトヘトだ、体が休息を欲している。
俺は地面にへたり込む。
「っと、魔力を使いすぎて立てんのか。」
「そう…です……ね」
「……仕方ない、儂に勝てたんじゃ、今回は運んでやるとするかの。」
俺はグラフィンに担がれながら、その場を後にした。
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