9話.思っていたよりも地獄

「よいしょっと……じゃ、始めるよ。」


喫茶店から出た後、王都から研究所に戻り、俺は今、研究所の外にある広大な草原にセリルと共にいる。


「えっと……セリル、今から何するの?」


「今からケイには基礎魔法の練習をしてもらう。……あと私の事は今から先生って呼んで。」


「先生?」


「そっちの方が雰囲気が出て良くない?」


「……はぁ。」


「ほら分かったらちゃんと返事して!」


「……はい。セリル…先生。」


「…まあ良いでしょう。」


セリル、完全に形から入るタイプ……

教えて貰う立場の俺が言えた事ではないけどな。


「じゃ、改めて、今から基礎魔法について説明するね。基礎魔法ってのは魔力を杖から出す普通の魔法と違って、杖を使わずに自分の体だけを使って使用する魔法のこと。コレが出来たら相手の魔法を自分の魔力のみで打ち消したり、自分の体に魔力を纏って身体能力を向上させる事が出来る。」


「おおっ。」


杖を使わないのであれば俺にでも出来そうだ。


「基礎魔法が出来ていれば最低限は戦えるはずだよ。それじゃケイ、魔力を体の一点に集める様に意識してみて。」


「……やってみる。」


体に魔力が集まる様に意識、意識、意識……。


「ケイ!全然魔力が集まってる感じがしないよ!ほらもっと体の中心を意識して!」


セリルにそう言われるが、今の俺は魔力を感じる事で精一杯だ。

杖を使う時は魔力を集める対象が見えていて、そこに魔力を集めれば良いので案外簡単に出来たが、杖が無いとなるとそれが途端に難しくなる。


「難しい………」


「弱音を言わない!コレが出来なきゃお話にもなんないよ?」


……そうだ、弱音を言うな、魔法学校行くんだろ?この程度で出来ないとか喚くな、俺。

ふー、集中。

体の中心……大体心臓の辺りに感覚を集中させるように……意識する。

すると、今まで感じた事のない……エネルギー?の様な物を感じた。


「お、やればできるじゃん。分かる?それがケイの魔力。」


魔力……今まではおぼろげに感じてはいたものの、今回はっきりと感じた事でまた何か分かった気がする。


「魔力を感じられれたことだし、次のステップ行くよ。」


「はい。」


「次は……私の魔法をケイの魔力で打ち消してみて。」


そう言ってセリルは杖を空に上げ、俺の頭上には大きな水の塊が出来る。


「じゃ、コレ落とすから魔力で弾いてね。」


「え、ちょ待っ………」


ザバァー。

容赦なく水が俺の体に降りかかる。


「あー、残念。でも出来るまで何度でもやるから気にしないで!」


休む暇も与えられず次から次へと水が降って来る。

やべぇ。これちゃんと呼吸しないと溺れる奴だ。


「ほーらどんどん行くよー!」


俺は死に物狂いで水を魔力で弾ける様に練習するのだった。





・~・~・~・~・~・~



一時間後………



「うーん、少しは弾ける様になって来てるけどまだまだだね!」


「ゼェ…ゼェ………」


あれから一時間ぶっ通しでこの練習をしている。俺も少しは水を魔力で弾ける様になって来た。

……でもそれ以上に呼吸が出来なさすぎる。今は辛うじて口元の水を魔力で弾いて命を繋いでいるが、少しでも気を抜いたら溺れてしまいそうだ。


「………ヘァックション!」


……そして寒い。水を浴び続けた事によって体ももう冷え切ってしまった。


「もしかして風邪引いちゃった?」


「ちょ、ちょっと休憩させて……」


流石に疲れる。少し位の休憩も欲しい。


「風邪……あ、そうだ!おじいちゃーん!アレお願い!」


「はいよ。」


……ん?何だか物凄く嫌な予感がするぞ?


【回復魔法……】


そうグラフィンがそう言った瞬間、俺の体は暖かい水に包まれる。

……そして数秒後には体が温まり、風邪の頭痛や寒気が消える。


「よし!風邪治ったし、これでまた練習が出来るね!」







ひえっ。

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