3話.召喚された意味を知る

「……ニホン?」


「そう、その国について何か知らない?俺の出身地なんだ。」


「うーん、聞いた事無いなぁ。」


セリルとグラフィンが来るまでの間、少し会話を交わす。

...どうやら俺は本当に異世界に来てしまったらしい。セリルは日本を知らないらしいし、魔法と言う前の世界に無かったファンタジーなものまでこの世界にはある。

魔法についてセリルに説明を求めた所、魔法は体内にある魔力を体外に取り出し、杖を介してそれを具現化する現象のことだと教えてくれた。

……正直、あまり理解出来ていない。


「ケイ、セリルとは打ち解けられたかの?」


ガチャリ、とドアが開いてティーポットと小さな菓子を持った老人、グラフィンが入って来る。


「ええ、短い時間でしたが彼女のお陰で直ぐに打ち解けられましたよ。」


「それは良かった。……よいこらせと。それじゃ、本題に入るとするかの。」


グラフィンは休憩室の椅子に座って、俺とセリルに茶を入れてくれる。


「……してケイ、主は何故この世界に召喚されたのかを説明しておこうと思う。」


「はい。」


「始まりは今からもう60年も前になるな、その時世界は滅亡の危機に瀕しておった。……魔王がこの平界を支配せんと軍を差し向けてきたのだ。魔王軍の緻密な策略や謀略に我々は為す術も無かった。あの時は本当に酷かったわい。街は焼き払われ、民は飢えて、明日食べる食べ物にも困った時もあった。そんな惨状を見て儂は思ったのじゃ、この手で世....」


「あーもうおじいちゃん話長いよ!もうちょっと簡潔に纏めてくれない?」


「お、おうすまんな。つい興奮してしまって。」


そこ家族だったのね。まあ顔は似て……なくは無いか。でも性格は似てる。


「……で、儂はその時王都にある研究所で研究をしとった。魔王から世界を救う何かを得る為にな。そして儂は見つけたのだ。遥かいにしえに勇者が魔王から世界を守った事が書かれた文献を。……それからはずっと勇者召喚の研究じゃよ。そして月日が経って、今日ついに成功したのじゃ。」


「それが俺…ってことですか?」


「いかにも。」


おいおい、責任重大じゃないか。異世界行って魔王倒すなんて。

……でも、グラフィンには助けて貰った恩があるし、勇者として世界を救うのもそれはそれで悪くはない。


「グラフィンさん、俺、やりますよ。」


「お、おう……」


「えっとケイ、そのことなんだけどね……」


「ん?どうした?」


セリルとグラフィンの顔が急に難色を示す。


「魔王が強すぎて太刀打ちできないって事ですか?大丈夫ですよ!絶対俺が倒して見せます!」


「いや、そんなんじゃ無くて……」


「実は……この世界の魔王は既に倒されてしまっているんじゃ……」




「...........は?」




ん?ん?どういう事?今さっき魔王倒されたとか言わなかったか?


「……つまり、この世界じゃもう勇者は必要無いってこと。」


いやいや、え?


「え、じゃあ、何で、俺、召喚……」


「あー、それはおじいちゃんが魔王が倒された後も勇者召喚の研究を続けたのよ。絶対に勇者を召喚して見せる!ってね。お陰で今は王都研究所から左遷されて勇者召喚の研究者は私とおじいちゃんの二人だけ。」


「そ、その……期待させてしまったら申し訳ない。」


俺の……きゃっきゃうふふ魔王討伐ライフ……


「噓だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


その夢は、儚く散った。

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