エピローグ・1

「だからさぁ、なんで最初から、『時間法』も発揮しながら本領を出さなかったのさ……?」

「…………ですからぁ、発動自体は瞬間で出来るように備えててぇ、バランサー【Ⅷ】相手だから油断せず、搦め手を含めるつもりで立ち回ろうと、不意を突くつもりでぇ……」


 机を挟んで、二人の男が、俯けた暗い顔を突き合わせて向かい合っていた。

 休日のレーヴィア高等魔導学校の教室に赴くとあった、寂寥せきりょう地獄みたいな光景だった。


「……なにをやっているんだよ」


 野暮用で教室に来るもんじゃないかもな、なんてことを考えながら、声をかける。


 つーかこいつら病院にいたんじゃないの? 即日退院したのか。元気な子たちだ。


「反省会……。…………ごめんよシキ、今までたくさん助けてもらったその借りを、果たす場面だったのに……俺たち、今回、あまりにも、役に立てなくって……」


 雪灘が「情けない」というじょうを顔面に張り付けながら吐露した。


 ため息をついて、手身近な椅子を引いて二人の傍に座る。


「そんなことねぇだろ。いきなり助けを乞うた立場で、受け入れてくれた事だけでも十分だって。お前らが助けてくれなかったら、そもそもあの状況が成立してない、助けてくれたそのこと自体が有難いよ」


 心から伝えた言葉に、雪灘と対面して座る律織は「うんうん、その通りだな、この話はお終いにしようか」と一つ手を叩いた。コイツ、もうすでに織枷校長から相当絞られてるな。


「……借りを返すって息巻いてた肝心の二人が、一つのことだけこなして……、あとは寝る子よろしく昏倒したのに……?」

「うッ」

「それでもだよ」


 足を緩く投げ出して、真正面から向かい合い、二人に、改めて伝える。


「ありがとう」

「…………ごめーん」

「素直に言葉を受け止めろよ。――らしくないことを喋った、ここまでな、あとは反省会でも他の何かでも続けてろ」

「そうしまーす……」


 本当にらしくないことを喋ったので居住まいみょうにソワソワしてきて、それで立ち上がって、椅子を戻して一つ声をかけると、教室をあとにした。


「シキ」


 教室を出る前、律織に呼び止められた。


「半端にしてしまった今回のことがあったけど、また、マジなときには力を貸してくれ」

「お前は少し、そこのところは反省しろ」


 指を突き付けて、それも本音の言葉を、厳しく伝えた。




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