遭遇

 律織と余技打バランサーが戦い始めた直後、雪灘が伊沙羅伎いさらぎバランサーを行動不能にしたそのあとから、事態が急速化した。


 そして。


 俺たちは、リティエルリがこの街の人間の誰に成っているかということを、――突き止められなかった。





伊沙羅伎いさらぎ 祐人ゆひとバランサーを撃破。指示をください」


 伊沙羅伎いさらぎバランサーとの戦闘を終えて、走り出す準備をしていた。

 南の大通りへ向けて、路地の脱出口へ歩を向けながら、リフと合流するため、あるいは姫鷺山きさぎやま きさきバランサーと対面できるように、シキへ指示を仰ぐ。


『――律織の元へ向かってほしい。雪灘、姫鷺山きさぎやまバランサーの姿が、今、一度も視えていない……。律織の情報では確実に動き出してはいるらしいから、空から視えないように行動していると予測できる。あるいは余技打よぎうちバランサーに指示されているのか……、ともかく、伊沙羅伎いさらぎバランサーより随分と慎重な性質たちのようだ、突然の遭遇に気をつけてほしい』

「分かった、気をつけるよ」


 ルート案内する。

 そんな彼の声を聞いた、路地から出た、その瞬間だった。


 直刃の刀を吊るす帯執おびとりが、奇妙に震えた気がした。――勘が告げる。


「――――姫鷺山きさぎやま きさきバランサーと遭遇」


 シキには視認できない死角。壁に囲まれた通路を抜け、通りに出たすぐのところで。

 まるで雨宿りでもするように。閉めきられた酒屋の屋根の下に、一人の女性が佇んでいた。


 情緒さえ感じられる緩やかな歩調で、屋根の下から姿を現す。


 無造作に腰に差していた剣は、いつの間にか抜かれていた。


【峰打ち】を抜き放ち、無駄な力が抜けていることを確認、認識しながら、構える。


 そして、彼女は口を開いた。




「私が妖精だと思った? 残念、それは間違い」




 きんの繊維、その一部に、動揺のりきがこもった。


 違うのか?


 てっきり、この人こそが、そうだと――。


「緊張してて大丈夫?」


 ゆらりとした動きで剣が構えられた。


 身体からだ微細電流エンジンを掛ける。きんが動かないままに躍動した。


 一瞬、瞳を交わし合う時間もなく。


 そして、彼女は警告も無しに、冷徹で無機質な声で、何事かの言葉を紡いだ。



なんじほむらともしびに。――ひらけ、【薊十文字あざみじゅうもんじ】」




 そして。



 

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