状況開始
「はい、じゃあ、もう一度言うけれど――」
蜜凪の声が、また、部屋いっぱいに溢れて響き渡る。
「この中にリティエルリがいるなら、聞いて! あなたがどんな罪咎を犯してしまったのかは計り知れない、けれど、私たちは、人間であるから――あなたの傷付いた心に、ただ寄り添いたいと思っている、近くに居たいと。私たちが何も分からない無知な盲目というならあなたには近づけないでしょう、けれど――あなたを想う心が無知盲目であるというのなら、この声を聞いて! この言葉に込められた想いは、あなたに寄り添いたいと願う一心は、種族の壁を越えてあなたに届くと、リティエルリ、信頼している――!」
心を動かされるような、とてもよい言葉だったが、――それを聞く俺たちの中に、その言葉が届いて心を震わせる者は誰もなかった。
「――これに応えない彼女じゃない。いない、この中にはいない、少なくとも【妖精の取り変え子】がかけられたのが未来でもなければ!」
「雪灘とか、結構怪しいと思えるけどな」
「シキ、なんとなくだけど、ちょっと酷いよ……」
誰がリティエルリであるのかは特定できない。そも、【妖精の取り変え子】が発動されたタイミングさえ、まったく判然としない……。
もしかしたら……【妖精の取り変え子】はつい今しがた行使され、リティエルリが姿を現わさなかった謎を紐解いた先程や、
織枷校長なら。【シーヘン】を秘密の場所として隠す【妖精の制約】に縛られることのないのと同じように、魔法力故に【妖精の取り変え子】に捕らわれないのではないか、ということを期待したが、……そのようなわけにもいかないようだった。
『
「…………」
妖精は、天災を引き起こす。
確実に分かることがある。もし、リティエルリの言っていた現象影響力の臨界値、ギリギリの状態であるのなら、彼女は、己が身に危険が迫っても……魔法を行使しないだろう。
「これ以上、悩んでいても無駄だろ」
律織の冷静な声が、場を引き締めた。
雪灘が、不思議な形状の
「先に大問題起こしたのは、あちらさんだ、多少の無茶は許される。シキ、号令」
「――律織と雪灘が実働、俺と蜜凪がサポートに入る。基本的に
「「「了解」」」
宿を飛び出した。
そして、外の道に一歩を踏み出した、その瞬間だった。
「――オイ、
「……まあ、好都合だ」
律織の報告に苦虫を噛み潰した顔で答える。どんな手段かは分からないが、挨拶の時か対面したときに、マーキングを施されていたか。
「律織が道の合流する南の大通りで、雪灘が南東の小路地だ、
『おい、聞いてるよな』
『聞こえてるわッ』
つい数時間前まであった活気も、夜闇に溶けて地に沈み込んだ街で、二つの勢力が足音を殺して駆け始めた。
――俺の【
指示を飛ばし、悠々と歩みながら、ふと不自然に空へ顔を向けた
「律織、五百メートル先に
『まかせて、シキ』
雪灘の、すぐそこにいるような優しい声が、通信機を介して届く。
『たくさん、シキには助けてもらった。俺にとって、本当に大切な場面でも、一度ならず……。だから。必ず借りを結果にして返すよ。約束』
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