世界にかけられた魔法
そして、皆が寝静まった深夜――
『
織枷校長から、目的地発見の連絡が入った。
『移動のための魔法があるなら、私が
時機は来た。
「シキ、答え出せ」
「分かった」
律織の激励に応え、先程、意図的に止めた問いを、今改めて、深く考える。
『成志郎くんは、どんなときに、人と顔を合わせづらくなる?』
それはたとえば、喧嘩してしまった時、言い出しにくいことがある時、苦手意識がある時、感情的な距離が広がっている時、あとは、社会的に孤立している時――しかしあくまで、俺の話で。
悪いことを知らせなければならない時、体調が悪い時、あとは……――。
そう。
――――合わせる顔が、ない時、とか。
呼吸が止まる。そして。
尋常じゃない量の汗が噴き出る。
こんな状況なのに……表情が沈み込んで、何も考えられなくなるのを止められない。
「……シキ?」
蜜凪からの呼びかけに、視線だけを上げる。
【
「シキ、どうしたの? なにか分かった?」
「……分かった」
分かりたくなかったなんて、そんなことは、言っている場合ではないけれど……。
それは現実から目を逸らしたくなる悲劇だった。
「リティエルリが消えて、俺たちの前に姿を現わさない理由が分かった。――蜜凪」
俺は、どんな夜よりも暗い声で、告げた。
「【妖精の取り変え子】の魔法だ……」
『よく誤解されるが、【妖精の取り変え子】は妖精が人間の子と自分の子を取り変え、人間の子を攫うというものではない。魔法により人間に『私は
だが、【妖精の取り変え子】の本質は、そこじゃない。
『自身の分身を作り出す魔法は妖精が使用する魔法の中でも高等なもので、この魔法を【妖精の取り変え子】と呼ぶこともあるが、一般的には己の存在を他人に刷り込む魔法を【妖精の取り変え子】と呼ぶ』
【妖精の取り変え子】
妖精にとっての罪咎、【嘘】。そして――。
彼女にとっての、最悪の嘘を、弱った心で……思わず、使ってしまったのか――……?
「――だとすれば」
亀裂の入った表情を浮かべた蜜凪だったが、すぐに、冷静な声が返ってくる。
「リティエルリは、この街の誰かであるか、それか……あちらのバランサーの誰かとして存在している、ということになるね。なら、片っ端から矛盾点を拾い上げて――」
「蜜凪、そうじゃない。事の深刻は……その程度じゃないんだ」
その程度では済まない。
そう、妖精と人間の魔法には、少なくとも『出力』において、彼我の差がある。
つまり――……。
「俺たちの誰かがリティエルリである可能性もある。いいか、俺たちは今日この街に来たという認識自体が、
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