最後の手段
『妖精が発見されました』
現場の画像を送り、リティエルリが飛んだのは北の方角であると解明してもらった、そのすぐ
出立準備をしていた俺は、織枷校長からの連絡に顔を顰めた。
「早い――ですね」
『律織から連絡がありました。発見地点は【ツナギエ三叉路】。運悪く……網が張られていた場所に、飛び込んでしまったようです』
「分かりました。状況は?」
震えを抑えきれないまま発した言葉に、織枷校長は『安心してください』と冷静を促す温かな声をかけてくれた。
『発見後、姿を見失ったようです。今は捜索状態、私の権限で『バランサーの任務の補助』という立場を与えますので、妖精を発見したという
「妖精を発見したのは?」
『
また顰まった表情、額を抑える。
……まあ、そうだよな、こんだけ早い発見だ、然るべき実力者が必要なはずだ。
「了解です。……どうして、移動先が【ツナギエ三叉路】なのでしょう?」
『
「…………」
『…………私がもう、本当に駄目になってしまったら、一度、人間の街を覗いてみようかしら』
そうか……、おそらく命の危機が迫った心身疲弊の状態で、遮二無二に【移動の方法】を行使してしまったことで――……あの時の深層心理が、強く反映されてしまったのか……。
『すぐに出発を。夜であるのがいい、急げば、半日とかからずに着くはずです。蜜凪ちゃんも一緒に、手筈は整えておきます』
「ありがとう。了解です」
通話を終え、「それじゃあ出発しようか」とすでに待機していた蜜凪に声かけて、俺たちは転がり出すように道中へ発った。
これは織枷校長ではなく蜜凪の母である愛架さんが手早く手配してくれた高速車に乗って、目的地へ移動する中、蜜凪が、俺に一冊のレポート用紙を手渡してきた。
「これは……?」
「私の、研究成果。もし……もし、【バランサー】との衝突が避けられなくなって、そのうえで本当にもうどうしようもなくなったときは……それが役に立つと思う。最後の手段だと思っていて」
蜜凪の荷造りは、あらかじめ準備があったとしか思えないほど迅速だった。この研究成果は、もしもを想定して備えていた、その結晶であるのだろう。
「…………。…………――これ、マジで……?」
それにしても。
…………。
本当にこいつは、天才なんだな……。
茫然となりながら、程々の厚みのある研究レポートを読み終えると、思わず、全てを忘れて唖然としてしまった。
「…………お前は凄いやつだ」
「最後の最後の手段として、これがあるっていうのは、知っておいて。きっとシキならこれを役立てられる」
「分かった」
最終手段。まさにそうなのだろう。
ただ、この研究成果があるというその事実は、希望が灯されたように、行く先に心強さを抱かせた。
「蜜凪」
「うん?」
「ありがとう」
「お、おうっ……」
問題ない。
俺たちが、必ず、助け出してみせる。
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