バランサーヴァーメラ支部
【ツナギエ三叉路】。いくつかの商業における主要経路が合流する大型の街であり、レーヴィア付近の田舎町とは賑わいの度合いが違った。現着したのは日も高いうちだったが、今は仕事を終えた者が笑いながら街に繰り出し、露天商人たちが道行く人々になお一層の活気を振り撒く、一日の終わり時だった。
律織を先頭に、俺と蜜凪が並んで、ただのガキの姿が神妙に見えますように、と礼儀の正しい姿勢で待機していた。
「もう一人、Ainsel階級【Single】の雪灘 雪刃も合流します。必ずや力になりましょう。どうかご指導を」
「いやあ、すごいなぁ。みんな、十五、六なんでしょ? バランサー【レベルⅦ】なんて呼ばれちゃいるけど、私だってAinselの階級は【Double】だし。あ、バランサーは一応、Ainselの階級も取っとくことが多いのよ。いやあ、三十路間近のおっさんとして焦るなぁもう」
バランサー【レベルⅦ】、
三十路間近と言ったが、見た目はもっと若く窺える。颯爽とした、涼しげな容姿。ただし灰色の瞳には、尋常じゃない奇天烈な輝きが宿っていた。
「ほら、
「……バランサー【レベルⅢ】、Ainsel階級【Plus】。
そして、あれが
歳は二十歳前後? 女性にしては少し短い髪。バランサーの紋章が入った赤いキャップを被り、キャップが落とす影に隠された鋭い瞳が、こちらを静かに窺っている。
腰には、拳銃が二丁据えられている。
「いやあ、でも優秀な子なんだよ祐人君は。あ、でも、なんて失礼か、あっはっは。歳もわりかし近いし、仲良くしてあげてね。……アレ、近いよね? まあいいや。さて、私たちヴァーメラ支部メンバーは基本、
「
「……消えましたね」
「あのー……」
蜜凪が遠慮がちに声をかける。
「彼女なら先程、
「…………」「…………」
そう、俺も見ていた。彼女はふらふらと目の前を通り過ぎた、綺麗な羽を持つ
「んー、いや、はっはっは、こんなことってあるのね! まあ、いつものことなんだよ」
「いつものことなんですか!?」
大声でつっこんでしまった蜜凪を、険悪な表情でじとりと睨む律織。蜜凪はハッとし、慌てて頭を下げた。
「す、すみません」
「いや百パーセントこっちのセリフだよね! ごめんねぇ、とんでもなく落ち着きのない子なんだよあの子は」
「は、はあ……」
「でもその落ち着きのなさと同じくらい優秀な子だから、そこは安心して。バランサー【レベルⅣ】、
バランサー【レベルⅣ】か。確かに、優秀な実力が窺える。
腰には細身の剣を、抜き身で腰のベルトに差していた。刀を極端に細くしたような、不思議な
「いやあ、無事挨拶が済んでよかった。いや済んでないか。……本当に申し訳ない。さてさて、顔合わせはこのくらいにしておこうか。では、今日は各自分かれて捜索を! 合流は明日の早朝にしよう。……妖精はまだこの街にいるのかな? いればいいけれど」
意味深なことを呟いて、
じゃらりと、不吉な軋みの音を残して。
他二人のバランサーが赤い制服に身を包んでいるのに対し、
「あの狸親父は、妖精が未だこの街に留まっていることを確信している」
手配した宿に向かいながら、律織が告げた。
「直接発見し、取り逃がしたっつーんだから、なにかしらのマーキングでも施したのかもな。妖精が街から去ればすぐに分かる程度の……。妖精はまだ、この街のどこかに潜んでるようだ、どうしてだかは判然としないけれど……」
「……分かった。とりあえず俺は、バランサー二人を追う。情報収集しよう」
「ん。俺は一旦宿に戻って、ユキと合流する。三人揃ってから、改めて状況を整理しようぜ」
「…………オイ。三人じゃないだろ。あのさ、私は?」
蜜凪が怒りを露わにしながら、俺たちと合流してからずっと、どこか不機嫌調子であった律織に尋ねる。
すると律織は蜜凪を冷たく睨んで、
「どちら様でしたっけ?」
「ハァア――!? なに、記憶障害? 酷いんだけど!?」
「酷くんだけど!? ――じゃァねえんだよッ! オイ、なんでお前がいるんだよここに。なにしに来たの本当?」
「私もシキ直々に頼まれて、ここにいるんですゥ! 目的のための手伝いですーーーッ」
「はい間に合ってます。間に合ってます間に合ってます間に合ってます。お帰り願えますぅー?」
「なんでよッ! オイ、なんでなんでなんで!?」
「なんでじゃねえんだよ。こっちがなんでだよ。なんでお前が当然みたいな顔しているんだよ、なんでお前が関わってんだよ、やっぱお前が諸悪の根源じゃねーか!」
「ちーがーいーまーすー! 諸悪の根源じゃないですぅー!
「なにも違わねえじゃねえか!?」
「諸悪じゃないですー。諸悪って言い方やめてくださいー。私も関係あるから来たんですー、ていうかシキから直々に、直々にッ、お願いされたんですー」
「識織ィィ! こんの――ッ! ……大体お前はいつもそういうふうに――!」
「俺はもう行くよ。またあとで」
呆れの声を残し、街の通りの直中で痴話喧嘩を始めた二人を置いて、一人、バランサーの追跡を始めた。
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