もどかしい時間

 昼頃を迎える前の時間に、律織から連絡が入った。


「【バランサー】の情報を欲しがってたよな? ――やはり名が通ってるのは、余技打よぎうち 伊代祇いよぎくらいだ。【バランサー】は俺が動いた時節より少し先んじて妖精を追っていたようで、今は【ミヅチ宗呂そうろ】周辺にアタリをつけて捜索しているみたいだ」


 思わず指を鳴らしそうになった。

【ミヅチ宗呂そうろ】! そこまで遠くはないが、明後日の方向だ。


 ブラフを掴まされてでもなければ、ここら一帯は、数日は確実に平和だろう。


「律織、急ぎのところ悪いがあと四日はかかる。おそらくそれまでに妖精が発見されることはない」

「分かった。――可能なら、できるだけ急げる道を模索してほしい」

「…………? 急ぐ理由が?」

「まあ、な……。――できれば、【バランサー】に先んじて、妖精を発見したい」

「なぜ?」

「それは……、…………、……妖精ってのは、もちろん種族にもよるけどな、そんな、邪険に扱うような奴らばかりじゃないと、そのことを知っているから……。【バランサー】に先んじられれば刺殺手段での解決になる可能性大だ、できれば……先んじて発見したい」


 思わず、優しい相槌の声が出そうになった。

 気を引き締め声で応える。


「律織。四日はかかる、もしかすれば三日で済む可能性もあるが、それは期待するような展開じゃない、ただ、四日のあいだは、妖精は発見されないという推測もある、兎にも角にも、俺のほうの手段を頼るなら時間は受け入れてもらうしかない。……詳細を明かせず、済まない」

「頼んだのは俺だ、分かった。それを踏まえて、こっちでも捜索を進めてみるわ。無駄だとしてもやってたほうがいいだろ?」


 注目株ハイライトホープの律織が走り回ることで、捜索のマークをレーヴィアサイドに向けさせないという意味では、こちらにとっても都合がいいかもしれない。荷も人も乗せない馬車馬のように走り回っていてほしい。


 警戒は怠らない、しかし追っ手は影も見えず、そして、素晴らしいことに本日も快晴続きだった。

 周辺は今晩曇るそうだが、幸い、ここら付近は雲も避けていく。幸運も確実に味方していた。


 注意を怠らなければ大丈夫だ。


 しかし……時間の進みが遅いな。まだ、昼前か。


 …………。


 時計の針を指で回し進めたいようなもどかしさを感じていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る