???=私の冒険記・3

 まどろみのような混濁の中で、掠れた意識の中で……、這うようにして私は彷徨った。


 いつ意識を失ったのかも覚えていない。

 気付けば、私は覚えのない丘の上で、堂々と天に背を伸ばす大樹に抱かれるようにして眠っていた。


 体中が軋んで痛かったけれど、一息つけるだけの余裕は取り戻せた。生命力溢れる大樹の幹をそっと撫で、感謝を伝えた。


 膝を抱え、俯き、失意に沈む。空には月が昇っているというのに。


 あれだけ憧れた外郭がいかく世界せかい。しかし、私にとっては、想像外に過酷な世界だった。


 なぜ、人間はあれだけ私に敵意を向けるのだろう……? 話くらい聞いてくれても、いいものだと思うけれど……。


 理由も無く、理由も分からず嫌われることは、とても辛かった。


 ふと、この世界を訪れてから負った悲しみの数々が――突然の敵意、殺意、逃走、殺意、殺意、拒絶、泥だらけの混迷――どっと押し寄せ、私を押し潰した。


 静かに涙を流している、そのときだった。


「あらん?」


 頭上から、声が降って来た。


 ――人間。


 悲しみに暮れるあまり、周囲の警戒がまったくの疎かになっていた……!


 心底恐怖し、即座に駆け出そうとしたが、しかしあまりの突然に足がもつれ、膝が折れてしまった。


「ちょいとちょいと」


 思わず声を上げそうになったけれど。


「どうしたの。ほら、私に話してみ? ――ほい」


 私に手を差し伸べたその人間が発した言葉。それに含まれた言霊には。

 不思議な温かみを感じずにはいられなかった。


 この世界に来て初めて受け取った、疑念の無い、警戒の無い、敵意の無い言葉。

 心からの、誠実な会話。


 差し出された手を取り、私は。


「う」


 全ての感情が、ぐちゃぐちゃに崩れて流れて。


「うう。……ひっく」

「おー、よしよし。……大丈夫。なんか分かんないけどさ、私は、ここにいるから。ヤバい状況だったら、どうにかしちゃる」

「う、うう。うああああああああ…………!」


 そして私は、この世界に来て初めて、この過酷を通して初めて――大声で泣いた。


 人間の彼女に頭を撫でられながら、私は声を限りに泣き続けた。


 胸いっぱいの安堵に満たされながら。

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