浅夢

 どうして。

 どうして俺なんだ。

 前世で何の罪を働いた? でなければ説明がつかない。

 なぜ、『生まれながらの拷問』というとがを刻んだ?

 どうして……?

 酷い。

 許さない。

 憎んで殺してやる。

 ……………………誰を?





「んハッ――……?」


 ……うたた寝していた。


 じっとりとした嫌な汗を拭う。


 机に置かれた『妖精に関する記述』の本を取る。段々とだが、妖精という存在に対する認識が、ふわふわとした童話のイメージから、現実味を帯びた実際へとアップデートされつつある。自分がこれから妖精というものと相対しようとしているという実感が湧いてきた。

 また明日、比代実ひよみ先輩に会いに行くとして、今日はもう少し自習を進めたところで、出来ることは全てか。


『妖精に関する記述』を含むいくつかの蔵書と一緒に借りた、他とジャンルの異なる一冊の本、『誠実の王子様』を手に取り、表紙をじっと見つめる。


 彼等かれらも生きとし生ける者というイメージと熱が、この絵本を通して俺の認識へ伝わる。夢見てんなァ、という……苦笑しながらも悪くない気持ちを抱くことは、感性を通して、彼等かれらの感情を生々しく感じさせた。


「少し休憩しようかな……」


 ひとりごちて、立ち上がる。気分転換に外でも歩いてくるか。


 一人暮らしの借家である一軒家をあとにして、晴れて満天の星空が見渡せる外へと、足を踏み出した。

 よく澄んだ空気を肺に取り入れると、これから妖精にでも出会うんじゃないかという気分になってきた。


 小さく笑う。そんなわけないよな。



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