最初のスケルトン2
「スケルトンさん、いる?」
後日クリャウは再び穴を訪れていた。
相変わらず助けてくれもしない人間に比べてスケルトンはクリャウのことを助けてくれた。
穴の底に置き去りにしたこともずっと心に残っていたので様子を確認しにきた。
穴の中を覗くとスケルトンはクリャウが離れる前と同じ場所にいた。
「あれ……?」
けれどスケルトンは手に剣を持っていた。
穴の中にいた時には持っていなかったはずなのにとクリャウは首を傾げる。
穴の中に投げ捨てられる死体の身につけていたものは基本的に回収されて適当に売り捌かれてしまう。
剣なんて簡単に売れる最たるものであるが、乱雑に死体も投げ捨てられるので身につけたものがそのままの死体があってもおかしくはない。
そうした物を骨の中から掘り出したのだろう。
ただスケルトンがそんなことをするなんて意外だと少し驚く。
結局穴には誰も来なかったようでスケルトンは無事だった。
「えっと……」
クリャウは家から持ってきたロープを取り出した。
周りをキョロキョロと見回す。
穴の近くにあった木にロープをくくりつけると反対側を穴の中に垂らした。
「それで登って来られる?」
本来なら魔物を解き放つのは良くないことである。
しかし自分のことを穴に投げ捨てたパン屋のオヤジよりもこのスケルトンの方がよっぽどクリャウにとって良いやつだった。
スケルトンに意思があるのか知らないけれどこのまま放置しておくことはクリャウの両親が痛んだのである。
「うわっ!」
スケルトンはブンと剣を投げた。
一瞬攻撃されたのかと思ったけれどどうやらロープを掴むのに剣が邪魔だったから穴の外に投げ出したようだ。
スケルトンはロープを掴むと壁に足をかけてゆっくりと登ってくる。
登ってくる様子を眺めながらクリャウはどうしてスケルトンが急に生まれたのかを考えていた。
思い当たる節は一つだけある。
「俺の魔力が……?」
スケルトンが発生する前の日にクリャウは黒い魔力なんて無くなればいいと魔力を放出した。
黒い魔力とスケルトンの因果関係はまだ謎ではあるけれど黒い魔力のせいでスケルトンが発生したのかもしれないとクリャウは考えていた。
考え事をしているうちにスケルトンが穴の外までどうにか登ってきていた。
「……やっぱり君は俺を襲わないんだね」
穴から出てきたスケルトンは投げた剣を拾い上げるとクリャウの前に立った。
剣を抜くわけでもなくただただクリャウの前に立つだけで何もしない。
「手を上げて」
試しにクリャウが命令してみるとスケルトンはスッと両手を上げた。
「手を下げて」
今度は手を下げる。
「座って、立って、ええと……回って」
いくつかの命令をしてみるとスケルトンは全て従って動く。
「……とりあえずこれ着て」
クリャウはスケルトンにローブを渡した。
家にあったもので元々はクリャウの父親が使っていたものである。
スケルトンをどうするのか悩んだけれど好きにしろと言ったところでついてきてしまいそうだと思った。
家に置いておくわけにもいかないけれど穴底に置いておくわけにもいかないのでひとまず連れて行くことにした。
「うーん大丈夫そうかな? フードは深く被って、手足は出さないようにしてね」
大丈夫だろうかと思っていたけれど大きめのローブはスケルトンのことを上手く覆い隠してくれた。
わざわざ顔を覗き込もうとしない限りはスケルトンだとバレることもないだろう。
「ついてきて」
ほとんど人の来ない場所ではあるものの全く来ないなどと言い切ることもできない。
誰かが来る前にこの場を移動しようと思った。
スケルトンを引き連れてクリャウは家に向かった。
「今日は大人も少ないからよかった」
警戒して少し遠回りで家まで向かった。
誰とも会うことがなく家の近くまで帰ってこれたのだけど、そのまま帰っても大丈夫だったかもしれないとクリャウは思う。
今日は村の大人たちは近々行われる祭りのために一斉に狩りに出掛けている。
何事もなければ今日は穏やかに過ごせそうな日である。
「結局家まで連れてきちゃったけど……」
スケルトンをどうしようか。
その考えは結局まとまっていない。
「まあいいや……」
どうせ考えがまとまることはない。
なるようになるぐらいに考えてクリャウは自分の家にスケルトンを押し込んだ。
クリャウが住んでいるのは村のはずれもはずれにあるボロ屋だった。
両親が生きていた頃はまだもう少しまともだったのだけど子供のクリャウだけになってあっという間にボロボロになってしまった。
それでも雨風を防げるだけボロ屋でもありがたい。
「スケルトンさんは椅子にでも座ってて」
家の中は比較的片付いている。
綺麗にしているというよりは物が少ないからごちゃごちゃとすることがないのだ。
スケルトンはクリャウの言う通りに近くの椅子に座った。
「スケルトンさんは俺の魔力で動き出したの?」
クリャウはスケルトンを見つめる。
声をかけてみても当然返事は返ってこない。
「やっぱり……そうなのかな?」
クリャウが黒い魔力を放出するとスケルトンがカタカタと揺れる。
「骨に魔力を与えるとスケルトンに……なるのかな?」
でも穴の中には山ほど骨があったのにスケルトンになったのは一体だけだった。
ただ魔力を与えただけじゃダメなのだろうかと頭をひねる。
「えいっ」
とりあえずスケルトンに向けて黒い魔力を与えておく。
どうせ魔力なら腐るほどある。
他に使い道はないしスケルトンが興味を示しているならと与えてみた。
「スケルトンさんを隠すのにローブだけじゃちょっと不安だよな……」
流石に顔までは隠せないけれど手ぐらいなら隠せる。
クリャウは父親が使っていた手袋がどこかになかったかなとクローゼットの中のを探し始めた。
「うーんないなぁ。上かな?」
クローゼットの中には手袋はなかった。
クローゼットの上に置いてある箱の中だろうかと思うけれどクリャウの背では箱に手が届かない。
「スケルトンさん、俺のこと持ち上げてくれる? なーんてね」
穴の中でもスケルトンがクリャウのことを持ち上げられはしなかった。
だから無理だろうと分かっていながら声をかけた。
「ふぇっ!?」
どうしようかなと思っていたらスケルトンに腰を掴まれてひょいと持ち上げられた。
穴の中の時とは違って力強くて体が高く浮き上がる。
箱にも問題なく手が届いて、ストンと下ろされたクリャウはびっくりして少し呆然としてしまった。
「えっ、力強くなったの?」
確かに穴の中では支えるぐらいが限界だった。
なのに今は軽々とクローゼットの上の箱に手が届くまで持ち上げられた。
スケルトンに何が起きたのだとクリャウは不思議でいっぱいになっている。
「力が強くなったのはいいことだしね」
理由はどうせ考えても分からない。
無駄に考えてもお腹が減るだけなので悩むことはやめて箱の中を漁る。
「あったあった!」
箱の中から革の手袋を取り出す。
クリャウには大きくて使えない物だけどスケルトンの大人の手なら着けられそうだった。
腰をもたれた時も骨がゴツゴツとしていて少し痛かった。
手袋を着けていればバレる可能性を少しは下げられる。
「また持ち上げて」
箱を戻すために革の手袋を着けたスケルトンに再びお願いする。
「……あれ?」
スケルトンがクリャウの腰に手を当てて持ち上げようとするのだけどクリャウの体は持ち上がらない。
上に持ち上げようとする力が加わっていることは間違いない。
それなのに明らかに力不足なのである。
「なんで?」
クリャウは首を傾げる。
力が強くなったと思ったら今度は弱くなった。
「まさか、俺の魔力?」
思い当たる節としてあるのはまたしても黒い魔力だった。
先ほど気まぐれにスケルトンに黒い魔力を与えた。
もしかしたらそのことが関係あるのかもしれないとクリャウは気がついた。
「試しに……おおっと!」
だからスケルトンに黒い魔力を与えてみた。
するとまたしても力が強くなってクリャウが持ち上げられた。
「やっぱり俺の魔力なんだな」
黒い魔力がなんなのか未だによく分からない。
けれどもスケルトンが強くなるのには効果がありそうだということはひとまず分かったのであった。
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