コロコロコミックしか読んでいなかった子供がいきなり火の鳥に触れるとどうなるのか?
kayako
あの鳥の血は読者をも狂わせる。
web小説界隈を、追放令嬢ものを始めとする異世界恋愛ものが席巻して、はや数年。
一過性のブームにとどまることなく、ジャンル「異世界恋愛」の作品は今でも「小説家になろう」の総合ランキングを独占している。特に、やはりざまぁ・溺愛・復讐が強い印象。
かくいう自分も、書き手のはしくれとして「異世界恋愛」に挑戦したことはある。
しかし、どれもがなんかうまくいかないのが実情だ。
とりあえず舞台が異世界で、ヒロインの追放から始めればいいんだろ?という何とも浅はかな考えから始まったのが、「触手令嬢は、セーラー服美男子をめちゃめちゃにしたくてたまらない!」(https://kakuyomu.jp/works/16816927862953733344)だったり。
(タイトルに反し、内容がガチ深刻なイジメ&家庭内暴力&シリアスバトルのオンパレード。ざまぁもあるけどそれ以上の勢いで事態が深刻になる。溺愛もあるにはあるけど、もっぱらヒロイン→イケメンショタへの溺愛がメインで、矢印がなかなか逆にならない。相思相愛ではあるんですが……)
あとは、真面目に追放ざまぁのフォーマットに従ってみようと挑戦したら、ろくでもなさが過剰すぎるパワハラモラハラDVドクズキャラが登場して一番目立ってしまったり。
導入部分だけフォーマットに則って、実は追放した側にのっぴきならない事情がありました!ざまぁじゃありませんでした!最終的に追放した王子と追放されたヒロインが相思相愛になりました!!とやったら全くウケなかったり。
とにかく色々やってみたが、なかなかうまくいかない。
安易に流行りものを書きたくないとかいうしょうもないプライドが邪魔しているのか。
しかしそんなプライドをかなぐり捨てて「異世界恋愛」に挑戦してみても、評価が芳しくないものが多い。
一体それは何に起因するのか。
恐らくそれは、自分が基本的に
幼少時から思春期にかけて、少女漫画をほぼ通過していない人間である
この厳然たる事実が原因ではないかと、最近感じるようになってきた。
勿論大人になってから、色々と読んだことはある。
大学生になってから「こどものおもちゃ」を全巻読みあさったり。
結婚してから(旦那の持ってた)「フルーツバスケット」を全巻読んでみたり。
あとは友達から「月の子」を借りたり、部室とか美容室とか病院とかに置いてあった少女漫画をちょいちょい読んでいたぐらいだろうか。
しかし、最も感受性が磨かれる時期であろう幼少時から思春期にかけては、ほぼ少女漫画に触れたことがない。
少女漫画特有の「キラキラ」を、幼少時に摂取できていないのだ。
つまり、少女漫画の何がどう魅力的で、何がファンを惹きつけるのか。その点を本質的に理解できていない。
少女漫画といえば、「目が異常にデカくておっちょこちょいのヒロインを、ツンデレの不良イケメンと優しくて知的なイケメンが取り合い、何故か常に理不尽なまでにツンデレ不良が勝利する」というイメージから脱け出せない。
これは特に「追放令嬢もの」「溺愛もの」を書く上では致命的なのではないかと、もうウン十歳になろうかというトシで悩んでいる。
そのかわり小さいころに読んでいた漫画といえばもっぱら、弟の読んでいたコロコロコミックである。
年齢バレを恐れずに白状するなら、「キヨハラくん」や「ビックリマン」が全盛期で、「エスパー魔美」や劇場版ドラえもんの原作が連載されていた頃。当時のスローガンであった「勇気」「友情」「闘志」をテーマとした漫画が多数を占めた。まだポケモンは影も形もなかった頃である。
主人公側はどれほど傷ついても血反吐を吐いても、仲間の力とド根性で這い上がり、最終的に大勝利。そんな漫画が殆どだった気がする。
恋愛? キラキラ? そんなことよりウ〇コしてぇ!!というタイプの漫画も多かった気が……
同時期にたまに「ボンボン」を読むこともあったけど、そっちはコロコロと違いかなりハードな展開の漫画も多かった。Zガンダム漫画版のラストあたりもたまたま読んでて、今でもちょっとだけ思い出せるレベル……
エマさんが爆〇したコマは、前後のシーンはまるで記憶にないのに何故かそこだけ覚えてる。
時々「あさりちゃん」を読むことはあったが、その頃触れた少女漫画といえばその程度だろうか(あとは学年雑誌に載っていたバレエ漫画「まりちゃん」シリーズぐらい?)
そして見ていたテレビは特撮戦隊ものにロボットアニメ、そしてドラえもんにパーマン、ハットリくんといった藤子作品が多数。
全体的に、弟が楽しんでいるものを一緒に見たり読んだりするパターンが多かった。
弟と違い自分があまり主張できない性格だったというのと、「漫画ばっかり読んでると勉強しなくなる! 習い事しなくなる!」という親の方針もあったと思う。
あと、少女漫画的なものを見たり読んだりしてると弟やその友達からバカにされまくるというのもあったしw
何より、何だかんだでコロコロは読んでて楽しかったから、全く違うジャンルの少女漫画を読もうという気にはあまりなれなかったというのが大きいかも知れない。
というわけで、ほぼ少女漫画にろくに触れないまま幼少期を過ごした私。
だがある時、コロコロを巡り我が家で大事件が発生した。
それが私の価値観を(特に漫画に対するそれを)、大きく変えることになる。
当時連載されていた大人気漫画「おぼっちゃまくん」を、母にたまたま目撃された弟。
そのあまりに過剰な下ネタぶりに母はドン引き、弟と私はコロコロ購読を禁止されてしまったのである!
勿論弟は泣いて喚いて抗議したが聞き入れられず。当然私も、コロコロに触れることは出来なくなってしまった。
どうしよう……キヨハラくんが読めない……ビックリマンの新情報も分からない……神帝隊どうなっちゃうの……?!
と私がなったのは言うまでもない。
学校でも家庭でも勉強や習い事に追いまくられかなりのストレスだった中、漫画が結構な癒しだったことを思い知らされた。
そこで私は一計を案じた。
弟が買ってもらえないなら、私が自分で、母にバレないように買えばいいじゃないか!!
買い物を自主的にやることなく、ほぼ全てを親に買い与えられるままだった子供が、初めて親に逆らい自分で買い物をしようと決断した――
それは私の一生でも、記念すべき瞬間だったかも知れない。
お小遣いを握りしめ、学校帰りに近所の本屋に行った私。
本屋に一人で行くのも、学校帰りに買い物に行くのもあまりなかっただけに、本当にドキドキだった。
コロコロを隠す用の布カバンも別に用意して、準備は万端。
――のはずだったが、ここで懸念がひとつ。
もし……もしも帰った時、母にカバンの中身を見せろと言われたら、どうしよう?
コロコロはそこそこ分厚いし大きいし、絶対に言い訳できない。終わる!
それに、コロコロは弟みたいな小学生男子が読む漫画。自分は小学生とはいえ女子。
本屋の店員さんにおかしいと思われないだろうか?
(※今でこそ笑い話だが、その当時は男子と同じ漫画やテレビを楽しむ女子は異様にバカにされる傾向があった。少なくとも私のクラスでは……
家で少女漫画を読むとバカにされ、学校でコロコロや特撮好きだとバレるとバカにされるというなかなかキツイ漫画環境だったw)
そんな葛藤と羞恥が入り乱れた気持ちで、目の前の本棚を見上げると――
そこにあったのが、手塚治虫の「火の鳥」。しかも角川書店版のハードカバー。
当時発売していた「火の鳥」はそこそこの大きさで、コロコロに重ねればコロコロがどうにか隠れる程度のサイズはあった。
――手塚治虫といえば、鉄腕アトムやジャングル大帝の人。
その人がどうしてこんな分厚くて、表紙もすごく大人っぽい本を書いているのか分からない……
けど、とりあえずこれを買えばコロコロは隠れる! それにこういう大人っぽい本を上にすれば、店員さんにも恥ずかしくない!(小学生の思考)
手塚治虫だったら多分、親に見つかっても納得してくれそう!
(今思えばとんでもなく失礼とは思うが、これ↑が当時の、手塚治虫に対する自分の偽らざる認識であった。
しかも角川書店版ハードカバーの表紙は、一見漫画とは思えない肖像画的イメージイラストが描かれていた。初めて見た時は大長編の小説だと思ったし)
当時お小遣いはそこそこもらっていたので、火の鳥とコロコロ、両方を買う余裕はあった。
火の鳥はほぼ全巻揃えてお店の棚に並べられていたが、とりあえず一番端にある「黎明編」を掴み、コロコロの上に重ねてレジに持って行った。
そして無事母に咎められるもことなく、コロコロは密輸に成功!!
――その後自室に戻ってコロコロを楽しんだ後、ついでとばかりに火の鳥に手を出し。
とんでもない衝撃を喰らったのは言うまでもない。
主人公の家族がのっけから容赦なく死ぬ。
主人公の周囲の人物も容赦なく死ぬ。
生まれたばかりの赤ん坊たちも、まとめて一気に死んでいく。
ちょっと前のページでギャグをかましていたキャラも、当然のように死ぬ。
しまいには主人公も、副主人公的立ち位置の人物も……
コロコロなら何事もなく生きているはずのキャラが、あっという間に当たり前のように死んでいき。
コロコロなら勝利しているはずの主人公が、情け容赦なく敗北と逃走を続ける。
「勇気」に溢れた主人公はその勇気ゆえに酷い目に遭いまくるし
「友情」は仲間の死や裏切りによって無惨に破壊され
「闘志」を燃やして戦いに挑んだキャラはあっさり殺される。
それ自体が当時の自分にとっては相当衝撃であったし――
鉄腕アトムは無敵で正義のヒーローだとばかり思っていたのに、手塚治虫ってこういう漫画も描く人だったのか! というか、漫画ってこういうものもあるのか!!
――と、内容含めて滅茶苦茶なショックを受けたのを覚えている。
そして次の月も、気づけば私はコロコロの密輸と同時に火の鳥を購入。
次に入手したのは第2巻と位置づけられている「未来編」。
「黎明編」の続きかと思っていたら、遥か未来から始まるという展開からしてまずビックリしたのを覚えているが、その中身は
――これまた、「黎明編」以上にヤバイシロモノであった。漫画史に残るほどの。
内容については是非皆様の目で!
キャラ推し的な意味では復活編が特にお気に入りだけど
乱世編は悲惨すぎて家族に心配されるレベルで情緒不安定になったし
望郷編はヒロインの行動が倫理的にヤバ過ぎるし
コロコロが基準だった自分にしてみれば、どの巻も価値観が変わるレベルで衝撃すぎた。
そんなこんなで太陽編までたどり着いたら感覚がマヒしたのか「意外と普通かも?」となってしまった……しょっぱなから主人公が顔の皮剥がされるわ、上から下まで全部ろくでもない話なのに……
そんな経緯もあって、コロコロオンリーの状態からいきなり「火の鳥」の衝撃を味わわされた幼少期の私。
その後も火の鳥を摂取しまくってすくすく成長し、さらに「アドルフに告ぐ」まで大量摂取した結果、見事に性癖など色々な面で歪んだ。
普通ある程度少女漫画か、そうでなくてもジャンプ漫画あたりを経由するだろ!?とお思いかと思いますが、こういう経緯だから仕方ないね!!w
ちなみに自分、ジャンプ漫画さえあまり通過していない。やっぱり弟が読んでたキン肉マンやキャプテン翼をたまに読んでたぐらいだろうか。
今でもジャンプ関連ネタは分からないことが多い(ジョジョもハンターもワンピもネットに膨大なネタが氾濫してますが、半分ぐらいはよく分かってないですw)
そういうわけで、自分の漫画遍歴はこのように歪みまくり。
好きな漫画は火の鳥以外だとサザンアイズ(第3部ぐらいまで)とマスターキートン。
(他にも色々ありますが、アニメから入ってマンガを好きになったパターンが多い)
もうちょっと読まないと、書き手の端くれの端くれとして本気でヤバイとは思っておりますが……
悲しいかな、子供の頃に触れた作品のインパクトとその影響は、大人になってからのそれとはやはり全然違う。
今でも自分の脳裏に強烈に焼き付いている作品は、思春期あたりまでに触れたものが非常に多い。個人差はもちろんあるとは思うが。
「名作」と呼ばれる作品に大人になってから触れた時にありがちだが、「思春期までに触れておけばよかった……」と何度思ったか分からない。
特に少女漫画特有の「キラキラ」の魅力は、思春期までに触れていなければ分からない部分もあったのかなぁ……と思うと、非常にもったいないことをしたなと今では感じる。
今から必死で少女漫画を読み漁ったとしても、(ハマる作品はあるかも知れないが)子供時代と同じ感覚で読めることはまずないだろうし、その時だからこそ味わえる感動や衝撃を今味わうことは難しいだろう。
大人になってから読み返したら新たな発見が!というパターンも多いように、子供でなければ分からない魅力を持った作品も多いと思う。
そんなわけで、皆様。
感性が若いうちに、出来る限り多くの作品に触れるようにした方がいいです! 少女漫画に限らず!
大人にならないと分からないことは多いけれど、子供でなければ理解出来ない感覚というのは確かにある。
少女漫画しか読まないのはもったいないし、ジャ×プしか読まないのももったいない。
もっと言うなら、漫画しか読まない・アニメしか見ない・なろう小説しか読まないのも非常にもったいない。
自分は確かに、幼少期に少女漫画をろくに通過せず人生を過ごしている。
しかしそのかわりに「コロコロ⇒火の鳥」というレアなルートを通った人間でもある。だからこそ得られた衝撃もあるし、貴重な体験でもあったと思っている。
そして――
だからこそ、他とはちょっと違うものが書けるとも信じている!
どんなに内容が歪んだ異世界恋愛ものだとしても!
それがウケるかどうかは全く別の話としても!(泣)
コロコロコミックしか読んでいなかった子供がいきなり火の鳥に触れるとどうなるのか? kayako @kayako001
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