第5話 甘城さんは料理が上手

 アマチュア無線研究部にいる女子は『叶井かない』とだけ名乗った。どうやら、先輩で三年生のようだった。しかも、二人は仲の良い友達のようで親しい間柄のようだった。

 単なる先輩・後輩という関係ではないようだ。


 俺はビビりながらも『村神』と名乗り、甘城さんと同じクラスで、しかも隣の席であることを説明した。


 すると警戒心が解かれ、俺は一応の人権を得た。



「そうなんだね。よろしく、村神くん」



 砕けた笑顔を見せる叶井先輩。ほぉ、笑うとめちゃくちゃ可愛いな。癒し系なんだな。

 叶井先輩は、甘城さんのようなギャルではないが清楚せいそだな。


 挨拶を交わし、俺はアマチュア無線なるものに少しだけ興味が沸いた。

 なんかテーブルの上に機械がたくさんだな。あのマイクのようなもので通信するのだろうか。あとモールス信号もあるようだ。すげえ初めて見た。



「ここでお昼にしよ、草一郎くん」



 と、甘城さんは俺の腕を引っ張る。ここで……?

 なんとアマチュア無線研究部でお昼だと。いいかな。



「どうぞどうぞ。霧ちゃんの作るお弁当最高だからね」



 なるほど、そういうことね。どうやら、この叶井先輩はお弁当を作ってもらっているらしい。友達なだけあるな。


 俺も混ぜてもらえることになり、パイプ椅子に座った。


 テーブルの上に並べられる弁当。

 から揚げやタマゴ焼き、煮物に野菜といった非常にバランスのよい中身だった。……へえ、美味そうだな。てか、甘城さんって料理できるんだ。意外すぎた。


 割り箸を受け取り(準備が良いな)、俺はさっそくタマゴ焼きをいただく。



「いただきます」

「うん」



 不安気に俺を見つめる甘城さん。まさか、料理の品評を期待しているのだろうか。上手いか不味いか俺に言って欲しいんだな。

 でも、甘城さんの作る料理なら美味いはずだ。


 ぱくっと卵焼きを口に運ぶと――。



「――んまッ」



 思わず自然に声が漏れた。


 ダシの利いた、だし巻き卵だ。舌の上でとろけるような触感で、俺はビビった。こりゃすごい。高級和風料理店のような味付けだな。



「え、美味しい!?」

「ハッキリ言ってすげぇ美味い。甘城さん、料理人なのかい!?」


 褒めると甘城さんは嬉しそうに微笑んだ。

 その笑顔があまりに天使すぎて、俺は脈拍が最高潮に達した。


 今のは可愛すぎるってッ……!


 あ~辛い。可愛すぎて辛い。



「へー、二人ともラブラブだねー」



 俺と甘城さんのヤリトリを観察している叶井先輩は、やや呆れ顔でから揚げ食べながら言った。



「「ラ、ラブラブ!?」」



 俺と甘城さんの声が被る。

 そんな風に見えていたのか……。


 ぼうっとしていると、甘城さんは残りの弁当を差し出してきた。



「た、食べて……」

「え。でも、甘城さんの分が……」

「全部食べて欲しいのっ」


「お、おぅ」



 そこまでお願いされては断れない。てか、全部食べたい。

 叶井先輩の分は別であるし、俺は遠慮なくいただくことに。――いや、半分に分けた。さすがにお腹が減っては午後の授業に支障が出てしまうだろうから。

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