第2話 一緒に帰ってくれる優しいギャル

 なぜ、甘城さんは俺に優しいのだろう。

 とても不思議に思う。


 二年生になっても俺はてっきり孤立していくのだろうと思っていたんだがな。


 だけど、そうしようと思っても甘城さんが俺を引っ張ってくれた。


 お昼も一緒に食べてくれた。その時、甘城さんの趣味が判明。彼女はテックトッカーにハマっているらしく、いつも動画を投稿しているようだった。……今時だぁ。


 その動画も見せてもらった。

 可愛らしいダンスやライブ配信までしていた。

 再生数も数十万とあった。

 そりゃそうだ。

 こんな美人ギャルなら、男は殺到するだろうな。



「というわけなの。面白いよ」

「へえ、甘城さんってインフルエンサーなんだね」

「あ~、だから霧って~、まいっか」


 まだ俺は彼女を名前で呼ぶ勇気がなかった。てか、一日で無理だ。

 甘城さんの距離感の方が異常なんだ。



 そんな放課後。



 俺は席を立つ。甘城さんもついてくる。トコトコと。



「えっと……」

「一緒に帰ろ!」

「俺なんかでいいの?」



 クラスメイトの視線も妙に感じているんだよな。

 しかも今日、甘城さんは男女問わず話しかけられまくっていて、クラスの人気者にすらなっていた。そんな甘城さんは当然、一緒に帰ろうと誘われるわけで。


 けれど、俺を選んでくれた。

 その手は俺に向けられていたんだ。



 あ、


 ああああぁぁぁぁぁぁッ!(嬉しすぎて心の中で絶叫する俺)



 本当に本当に不思議で仕方がない。

 でも今は深く考えないことにした。だって、女子と一緒に帰りたいからな!




 学校を出て二人で下校。

 まさか、俺にこんな日が訪れようとは……信じられん。明日も大雨かな。そいや、今は晴れたな。



「ねえ、草一郎くん」

「なんだい?」

「ライン、交換しよっか」

「いいの?」

「有無は言わせないよ~」


 ニコッと笑う甘城さんは、スマホの画面を俺に見せてきた。そこにはQRコードが示されていた。これを読み取れば、甘城さんの連絡先が分かる……!


 拒否する理由もないので俺は、自分のスマホを取り出してQRコードを読み取った。


 甘城 霧を追加した。


 俺の連絡先にはじめて女子が追加されてしまった……。

 とんでもない奇跡が起きた。



「ありがとう」

「これでいつでも連絡取れるね」



 さっそく可愛らしいスタンプを送ってくる甘城さん。おぉ、なんだか感動。

 まともなチャットもしたことがない俺。

 やっべ、指が震えるねっ。



「じゃ、俺はこっちだから」

「あたしもそっちなんだよね」


「え」



 意外だったな。まさか近所に住んでいたとは。

 そういえば、朝会った時も自宅から近い場所だった。もしかして、随分と前から俺のことを認識していたのだろうか。……まさかな。


 自宅の前まで到着。

 甘城さんも立ち止まった。



「へ~、ここが草一郎くんの家かぁ」

「普通の一軒家さ。甘城さんはどのへん?」


「この裏の家だね」


「え!?」


 衝撃的事実を知り、俺は凍った。めっちゃ近所じゃん!


 今までどうして会わなかったんだ?

 まあ……普段俺が向こう側の道路を歩くことはないからなぁ。たまたま会わなかっただけということか。


「あはは、びっくりだね」

「そっか。じゃ、これからは一緒に登校する……?」



 なんて無理そうな注文をしてみると、甘城さんは嬉しそうに微笑んだ。



「嬉しいっ! じゃ、決まりね!」

「本当かい」


「うん。今日は帰るね。スマホ見てね!」



 るんるん気分で歩き出す甘城さん。すっごく機嫌良さそうだ。てか……可愛い。

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