隣の席のギャルが俺だけに超絶優しい件

桜井正宗

第1話 不運な男と隣の席のギャル

 隣の席のギャル『甘城あまぎ きり』は、クリーム色に近い金髪を俺の胸の中に埋めていた。


「好き」


 そのシンプルな告白に俺の胸の高鳴りは最高潮に――。


 ぼっちの俺が高校二年に上がってから、霧とは特別な関係に至っていた。


 まぶたを閉じれば当時の光景が蘇るようだ。



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 ・

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【半年前】



 春になり、俺は高校二年生になった――らしい。

 あまり実感はない。

 特別感もない。

 ただの『日常』にすぎない。


 俺はあまりにぼっちすぎる人生を送っており、ついに人とのコミュニケーションもままならくなった。

 しかも“不幸”だ。


 かさを忘れてしまい、ずぶ濡れ。

 雨は容赦なく俺をシャワー地獄に叩き落す。


 クソがッ!


 なんで俺ばかりがこんな目に……!



『バシャァッ……!』



 猛スピードの車が通りすぎると、水しぶきがあがって俺にかぶった。……ちくしょおおおおおおッ!


 こんな状態で登校できるか。

 でも行かないと遅刻するしなぁ。

 仕方ない、このまま向かうか。


 そう思ったけれど。



「わ……ヒドイね」



 背後から声がした。可愛い声だった。

 振り向くと金髪っぽいギャルがそこにいた。な、なんか見られている?



「えっと……」

「はい、タオル」

「え、でも」

「気にしない気にしない!」



 ギャルは俺にタオルをくれた。……おぉ、良い匂いがする。石鹸せっけんの香りがするような。



 じゃあね、と言って元気よく行ってしまうギャル。

 女子と会話なんて小学生以来だろうか。



 学校へ到着して、俺はクラスメイトから珍獣のように見られた。そりゃそうだよね。こんなずぶ濡れ野郎、場違いすぎるというか……俺でも妖怪だと思う。


 なんか用かい? って言ってやりたいネ。


 しかし、今日からここが新しいクラスか。

 正直どうでもいいな。

 どうせ、待っている未来はツマラナイ人生さ。


 期待せず、俺は黒板に張り紙されている指定席を目で追う。


 ほうほう、俺は窓際の一番隅か。

 最高のポジションじゃないか!


 ぼっちにとっては聖地といっても過言ではない。


 さっそく向かい、俺は席へ――。



「え……」

「あ……」



 見知った顔のギャルと目が合った。


 あれ、この人……朝に会ったような。いや、間違いない! タオルをくれたギャルだ!


「お、驚いたな……」

「それはこっちのセリフだよ。隣の席なんだね」


「お、おう」


「あたしは甘城あまぎ きり

村神むらかみ 草一郎そういちろうだ」



 席に着き、俺はバクバクの心臓を抑えようと必死だった。こ、こんな美人と長時間会話とか……死ぬっ。

 てか、朝からどうした。

 不幸のどん底から天使が現れたぞ。


 これは奇跡か? 偶然か?



 時間は経ち、クラスを担当する担任が現れた。体育会系の若い男性だった。ジャージ姿がよく似合うね。

 ちょっとだけ、やりにくいなと感じていると視線を感じた。


 隣の席の甘城ギャルだ。



「……草一郎くんって呼んでいい?」

「い、いきなり名前!?」


「驚いた顔、可愛いね」



 えぇ……なんなのこの人。てか、ギャルってこういうものなの? 凄い近い距離感に俺は動揺したと同時に、嬉しくも思った。


 こんなに構って貰えるとか嬉しい~~~ッ!



「うん、いいけど」

「じゃあ、草一郎くんもあたしのことを『霧』って呼んでね」

「なッ」


 女の子の名前を呼び捨てで?

 無理無理。

 こんな可愛いギャルと話すこと自体が奇跡的だというのに、呼び捨てなんてしたら、まるで付き合っているみたいじゃないか。

 いや、それは嬉しいけど!


 むぅ~~~、困ったぁ。



「あはは。またあとで話そうね」

「お、おう……」



 なんだ、なんでこうなった。

 俺、なんで甘城からこんな優しくしてもらえているんだ――!?



 でもでもでも、嬉しいモンは嬉しいッ!



 イヤッホオオオオオオオオオゥ!!(俺の心の叫び)

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