第45話 手助けティアラ

「はっ!」


 目が覚めると、灰色の天井が視界に広がっていた。


 薬の匂いと、コーヒーの匂い。ここは……


「目が覚めたか」


「ティアラ!」


 他でもない私の妻、ティアラ・カラットの研究室だ。


「どうしてティアラの研究室に?」


「以前研究した際、お前の体に一服盛らせてもらった」


「な、何を?」


「一定以上魔力が減ると、私に連絡が来るシステムだ。見守り隊と名付けてある」


 ダッサ……とか言わない方がいいよね。うん、結婚生活、適度な秘密は関係を良好に保つのだ。たぶん。


 それにしても見守り隊って。お爺ちゃんお婆ちゃん用の携帯電話じゃないんだから。


「ティアラがここまで運んでくれたの?」


「まさか。事情をクリスタ・クインテットに話したらすぐに駆けつけて行ったぞ」


「あはは……」


 目に浮かぶよ。


 ふと、私とティアラ以外の人影を感じた。


「み、ミリュエム!」


「一緒に倒れていた少女も連れてきたようだ。さて、こいつの体は調べさせてもらった」


「……何か分かった?」


「落ち着いて聞け。コイツは特異点だ」


「特異点……?」


 何それ。Eden本編でも聞いたことがない。


「我々人間はかつて猿だったという。それが進化し、今の人間たちに進化した。それと同じようにこの娘は、今の人間よりも先へ進化し、新たな力を持った」


「それが天啓」


「そうだ。ドロリス・シュヴァルツもまた、特異点と呼べる存在だった」


「じゃあもしかしてドロリスの魂って……」


 私の疑念に、ティアラは首を横に振った。


「この娘の魂はこの娘のものだ。不純物は一切ない」


「そっか、良かった〜」


 ミリュエムの中にドロリスがいたらどうしようと焦ったよ。ドロリスの人格が出て、ミリュエムの才能があったらきっと世界が滅んでしまう。


 それに、ミリュエムがいなくなるのは嫌だ。勝ち気で人の話を聞かないわがままな娘だけど、本当は優しくて正義感の強い良い子なんだよ。


 安心する私とは対照的に、ティアラの顔は曇っていた。


「どうしたの?」


「……ドロリスの魂の在処が判明した」


「えっ!?」


 突然の告白に私は激しく狼狽した。

 無意識のうちに立っていて、ティアラの肩を掴んでしまっている。


「誰? 誰の中にドロリスがいるの!?」


「く……いや……」


 ティアラは言葉を紡ごうとしては黙って、いやしかし……と呟いてから、自分で自分を納得させたようだった。


 ティアラの様子から、あまり喜ばしい在処でないのは察せられた。

 苦虫を噛み潰したような顔のティアラは、震えるような声で言葉を紡ぐ。







「……奴の魂は黒雛心、お前の中だ」


「へ……」


 全身の力が抜け落ちていくような感覚に陥った。

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