第42話 公国最強
私はリンド村から遠く離れた、誰も住んでいなさそうな広場までミリュエムを連れ出した。
理由はもちろん、覚醒に至ったミリュエムに「教育」を施すためである。
大きな石と生い茂る雑草のみが広がるこのような場所でないと、今のミリュエムは爆弾すぎる。
「ミリュエム、さっき使った 《炎帝魔法:アグニバーン》は……」
「これのこと?」
「ッ!」
ミリュエムは再び燃え盛る紅蓮の魔人を背中に宿した。あれからまだ30分も経っていない。超級魔法の連発なんて、通常なら魔力が空になって気を失うはず。
何より、ミリュエム自身がつい先日まで下級魔法→下級魔法→中級魔法の3回で魔力切れを起こしていた。それが今や、超級魔法の連続仕様にまで至っている。
異常だ。いかにミリュエムに魔法の才能を感じていたとはいえ、この成長速度はあまりに異常だ。
それを可能にするのが、「天啓」。
「まずミリュエム、その魔法は軽々しく使っていいものじゃない」
「何でよ。アタシの力なら、アンタを倒すためにバンバン使うわ!」
「ダメ。大きな力にはね、大きな責任を伴うの」
「大きな責任? 堅苦しいわね」
「魔法は初級魔法→下級魔法→中級魔法→上級魔法→最上級魔法→超級魔法→崩壊級魔法→神級魔法の順で強力になっていくのは知っているよね?」
「もちろん。講義で嫌というほど聞かされたわ。その上さらに固有魔法というのがあって、それはこのレベルに当てはまらず、初級魔法程度の固有魔法もあれば神級すら超える固有魔法だってあるんでしょ?」
「うん正解。100点だ」
エスメラルダもいい講義をしているようだ。その上で、自習も怠らない。生前の私に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。
「じゃあミリュエム、話は変わるけど東側地域って好き?」
「嫌い! アイツら私たちが魔法に詳しくないからっていじめてくるのよ! ママだっていじめられた、嫌いに決まってる!」
「そっか。じゃあミリュエムが驚く事実を教えてあげる」
「驚く……事実?」
「もうウィットリア公国に、ミリュエムを倒せる魔法使いはいないと思う」
「……ええええっ!?」
ミリュエムは目をガッと大きく開けて、オーバーリアクションで驚いた。
「な、なな、何でよ! アイツら超強かったのよ! ママだって勝てなかったんだから!」
「もうミリュエムはママより強いよ。そしてウィットリア公国最強の魔女だ」
リュカに東側地域の調査に行ってもらったことがある。
結果は、大した魔法使いはいなかった。せいぜい最上級魔法を1つ使える神官と呼ばれる男が1人いただけだ。
私がミリュエムに望むのは、自覚。
ミリュエムはまだ10歳だ。村の中では可愛がられ、愛されて育ってきたのは様子を見ていればわかる。
だからこそ、自分への認知が足りていない。ミリュエムはもう、その気になればこの国を壊せてしまう力を持ったことを自覚して欲しいのだ。
「そんな……私……」
「怖くなった?」
ミリュエムは黙って首を縦に振った。
子どもは馬鹿じゃない。自分で察して、自分で理解できる能力を大人相応に持っている。勤勉なミリュエムなら尚更だ。
そして子どもは、大人を超えたいと思いつつ、いざ超えたら恐怖を感じるものなのだ。自分の未熟さを理解しているからこそ、自分より上から指導してくれる人がいなくなってしまった。そこに根源的恐怖を覚えるのである。
そんなミリュエムを、私は抱きしめた。
「ちょ、何すんのよ!」
「大丈夫、私がいる。ミリュエムに悲しい思いはさせないよ」
「……何なの。アンタは魔女たちの中じゃ極悪人って言われてる。なのに実際会ったらアンタは……」
「意外といい子でしょ、私」
ミリュエムは私の胸の中で小さく頷いた。
「ミリュエムの力は強大で恐ろしいものだ。でもね、その力は正しく使い、正しく導かれれば大切なものを守る力に変化する」
「ドロリス……」
「私がミリュエムの講師になるよ。どうかな?」
ミリュエムは数秒目を見開いて、
「アンタのこと、信用してないわ。でも……」
「でも?」
「信用していないアンタを超えるために、アタシはアンタに弟子入りする!」
「ふふ、了解。ミリュエムらしい回答だね」
私はうんと伸びをして、「早速」とつぶやいた。
「第一回講義だ。ミリュエムの力を存分に見せてもらうよ」
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