第41話 覚醒の兆し
祝いができたから満足したのか、アルシュは満足げな顔で帰っていった。ハーレムの一員にしたかったけど、振り回されて終わったなぁ。
「あ、あの……ドロリス様」
リビングでくつろいでいたら影から声が聞こえてきた。この声はエスメラルダだ。
「どしたのエスメラルダ」
「僭越ながら影から姿を見せてもよろしいでしょうか」
「いちいち許可取らなくて良いよ。出ておいで」
「し、失礼します」
家具の影から、白くモコモコの髪を生やし、人形のように端正な顔立ちをしたエスメラルダが現れた。
「久しぶりだねエスメラルダ。魔法学校の方は順調?」
「ま、まさにその事なんですが……」
「うん?」
エスメラルダは困った顔をしていた。その先の言葉を紡ぐのに躊躇っている様子。
「……ちょっと次の授業、見にいっても良い?」
私から提案すると、エスメラルダの顔はぱあっと明るくなった。
「お、お願いします! ドロリス様のお手を煩わせることになり申し訳ありません!」
「気にしなくていいから。じゃあまた明日ね」
「はい! 失礼します!」
エスメラルダはまた影に帰っていった。そのまま実体化していればいいのに。可愛い子が減ってもったいない。
翌日。
エスメラルダは目の下に隈を作って私の前に現れた。
「ど、どしたのエスメラルダ!? 昨晩何かあった!?」
「い、いえ。最近授業の前日になると眠れなくなるだけですので」
「重症! なんでそうなる前に相談してくれなかったの!」
「なるべくドロリス様のお手を煩わせるわけには……」
私はエスメラルダの手を握った。
「あのね、私たちはドロリスファミリー。つまり血の繋がりはなくても家族なんだよ。だからしっかり頼って? ね?」
「ドロリス様……は、はい!」
エスメラルダは頬をほんのり赤く染め、そして笑顔を見せてくれた。
さぁてさてさて、いったいどんな問題が起きているというのやら。まぁどうせエスメラルダ先生の言うことを聞かないとか、それくらいのレベルでしょう。要は反抗期というやつだ。
私は冥血城の一室、今は教室になっているカンファレンスルームのドアを開けた。
「はーい! 今日は私もいるからね!」
牽制した、そのつもりだった。
「悪の魔女ドロリス! 今度こそアンタを倒す!」
「うえっ!?」
予想通り噛み付いてきたのはミリュエム・マリアンヌだった。この村唯一の魔女の娘で、本人にも魔女の適性と才能があった。それも魔女である親を凌ぐほどに。
元々勝気な性格で、私に夜襲を仕掛けるほどだ。だからどうせミリュエムが言うこと聞かないことが、エスメラルダの悩みなのだろうと思っていた。
……が、いま目の前に広がる光景でそれは間違いだったと理解した。エスメラルダが悩んでいるのはミリュエムの性格ではなく、
ミリュエムの、あまりに恵まれた魔法の才能にこそあったのだ。
「ひと泡吹かせてやるわ! 《炎帝魔法:アグニバーン》」
《炎帝魔法:アグニバーン》。それは、例えばEden本編では物語終盤の敵が使うような超級魔法。
つまり、ドロリス配下幹部が頻用するほどの魔法なのだ。
モブ配下であるエスメラルダが通用する相手ではない。そりゃエスメラルダも眠れないわな! 生徒が自分をものの数週間で超えてしまったんだから!
「《アルテミスの盾》」
轟々と音を立てながら燃え盛る火炎の大魔人は、神級魔法 《アルテミスの盾》によって吹き飛ばされた。しかし強大な魔法2つがぶつかった衝撃で、生徒たちの机や椅子、プリント類がぶちまけられ教室は混沌に包まれた。
こ、ここが冥血城でよかった……。ドロリスの結界のおかげで壁や床が強化されているけど、ただの城なら粉々だ。
「ぐぬぅぅ……! まだ勝てないなんて!」
褐色肌の黒髪お団子娘は、きぃ〜と歯を噛んで悔しがった。
「ミリュエム、どこでその魔法を?」
「授業を聞いて、家に帰って勉強して、ずっとずっとずっと勉強したらある日夢で見たの。この魔法をね」
「天啓っ!?」
天啓。それは、Eden本編で物語中盤、アイリスが授かったもの。ゲームでは新魔法を3つ習得した特訓イベントになっていた。
「そうなんですドロリス様、ミリュエムちゃんは天啓を受けたらしくて」
「それなら納得だよ」
そもそも天啓はEdenでも超重要キャラクターにしかもたらされない。
アイリス、ドロリス、そして故人であるアイリスの母。この3人のみだった。
つまり、このミリュエム・マリアンヌという少女の才は、アイリス・ホワイト、ドロリス・シュヴァルツと並ぶ、世界屈指の才能であるということである。
これは……エスメラルダには荷が重いな。
「ごめんエスメラルダ、ミリュエムのこと、これから私に任せてもらってもいい?」
「は、はい! むしろお手数をおかけしてしまい申し訳ありません!」
「いいよ、天啓案件なんて世界中を探したって一生のうち一度も見つかることはないだろうさ。こんな有事、私以外の誰にも解決できない」
月並みだが、大きな力は使い方を誤れば大きな破滅をもたらす。
もしミリュエム・マリアンヌがこのまま成長したら、あくまで可能性だが3年後にはドロリスすら超える大魔女になるかもしれない。
そんな少女を導くには、私がなるしかないんだ。
一生超えられる気がしない、魔法の師匠に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます