第40話 初飲酒にトラブル
「こりゃそこの男! 酒を持ってこんか酒を!」
赤いツインテールをぴょこりと揺らし、アルシュが村長に人差し指を向けた。
ここはアルシュのリクエストで生まれた宴会会場。リンド村の開けた草原にレジャーシートを敷いて、まるで日本の花見のように作ったものだ。
「アルシュ、人をアゴで使わないの」
「むー? 何やらお主、雰囲気が変わったか?」
あ、やべ。アルシュにはバレるか?
「まぁ100年も生きられぬ下等生物など、短期間で変わって当然か」
誰が下等生物やねん。あぁもうクリスタが怒ってる……頭痛い。
ちなみに宴会会場にはリュカもティアラも駆けつけた。というか、「みんな集まるのじゃ」とアルシュが駄々を捏ねた結果渋々といった感じだ。
「おい、このドラゴン娘を何とかしろ」
「何とかしろって言ったってねぇ……」
そのドラゴン娘は村長から提供された酒をグビグビと飲んで、ぷはぁ〜とか言ってる。こりゃダメだ。
「引っ越しとは聞いていたが、またなんとも辺鄙なところに引っ越したではないか」
「こういうところが良かったの。アルシュだってアラン帝国にいて感じるでしょ? ドロリスを討伐しようっていう教会の動きとか……」
「ほう。俗世ではそうなっておるのか」
「アンタ何のためにアラン帝国にいるのさ」
こいつ仕事してねぇな?
「こりゃ飯をもっと持ってこんか。酒もじゃ酒も! 早よせい!」
「この狼藉者め……」
「落ち着いてクリスタ。アルシュが相手だとクリスタでも無事では済まないよ」
「くっ……」
「相変わらずめちゃくちゃな女ね。見てくれだけは良いけど、あとはきらーい」
「被験体にならんから嫌いだ」
アルシュめっちゃ嫌われとる!
まぁ、ここまで傍若無人だと……ね。
諦めてご馳走を楽しもう。私のその呼びかけで、クリスタもティアラもリュカも牙を収めてくれた。
「おいドロリス」
「ん?」
「飲め」
「飲め……って酒!?」
「他に何がある」
いやーそれは……だって私未成年ですし……
いや、いいのか? だって今私はドロリス・シュヴァルツ。酒が未成年に禁じられているのはアルコールが及ぼす害が未成年の体には顕著であるだけで、ドロリスの体には関係がない。
加えてここは異世界だ。日本の法律は、及ばない!
「よし、飲もう」
「ドロリス様!?」
「それでこそ我が盟友よ。盃を交わしてこそ、祝いの場じゃ」
私はアルシュから盃をもらい、水にも思える透明な酒を見つめて生唾を飲んだ。
人生初飲酒か……どうせ黒雛心のまま生きていたら、労働の帰りにスロトング系の酎ハイを飲むやさぐれた初飲酒になっていたことだろう。
ある意味で、アルシュには感謝だ。こんな愛するみんなに囲まれてお酒を飲めるなんて。
「いただきます」
恐る恐る盃を口に運んで、酒を口に流し込んだ。
瞬間。
口の中に病院が生まれた。
「かほっ、ごほっ」
「ど、ドロリス様!?」
「だ、大丈夫。結構びっくりしただけだから」
こんなに美味しくないものなの!? 匂いは甘いのに味は病院の待合室! 変なの!
しかも……あれ? 体がポカポカしてきた……
「んー……」
「ちょ、ドロリス貴女何しているの!?」
「おうおう、裸踊りか? いいぞいいぞ」
「ドロリス様おやめください! ぬ、脱がれ……」
「お前、恥を晒す気か!」
あれ〜? 私なんか服着ていないみたいにスースーする〜。
でも何でだろ〜幸せだな〜
「ドロリス大丈夫!?」
「リュカ好き〜」
「ふぇぇぇ!?」
目の前に好きなリュカがいた〜
だからハグ〜〜
「次ティアラ〜」
「お、おい! 恥を私まで伝染させるな!」
「ドロリス様もしかして……お酒に弱い!?」
「あー! クリスタ失礼だ! 無礼者ー!」
「え、ええ!?」
「罰としてクリスタにもハグ〜からの首にキスマーク〜」
「んにゃぁぁぁぁ!!!」
こっから先の記憶はない。
が、なぜか次の日みんなの態度がよそよそしくて、リュカに開口一番
「貴女は一生、酒禁止ね」
と割とマジな顔で言われた。
察したよ。たぶん、漫画みたいな酔い方したんだろうなぁ。
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