第37話 幹部で温泉:後編
サウナ!
それは生前、日本で空前のブームが起きていたもの。
暑い部屋に入る→水風呂→外気浴
このルーティンで、自律神経をウンタラカンタラするらしい。
え? なんでそんなに解像度が低いのかって?
いや私サウナ行ったことないんだよ。フィジカルが雑魚だったからヒートショックで倒れるって言われて避けてたんだ。
だけどちょっぴり憧れていた。だからリンド温泉を作るときに、サウナはマストだと思ったしティアラにも無理言って作ってもらった。
「おお、結構暑いね」
「ちょっとヤダ、むわっとするじゃない」
「部屋も薄暗いのですね。な、なんだか変な気分です」
「黙って奥へ進め。入り口は狭いんだ」
サウナ室は大人が20人くらいは入れる、結構広々とした作りになっている。部屋の中央には魔法で絶えず温められている石があり、それが部屋の温度を上げているそうだ。
「あっつ〜。貴女たちよくそんな涼しい顔でいられるわね」
リュカもティアラもすでに汗が滲み出ていた。しかし対照的に、私とクリスタの肌から汗は吹き出していない。
「私は鍛えていますし、ドロリス様は神様のようなものです。この程度で汗をかいたりしませんよ」
見事にフィジカルお化け組と一般組で分かれたな。というかティアラたちフィジカル雑魚組はもう顔が青ざめ始めているけど。
「本番はここからだよ。この石に水をかけるのが正解って聞いたことあるもん」
「石に水? それなら温度が下がるんじゃない?」
「さぁ? でも記憶違いってことはないと思うよ」
というわけで下級魔法である 《水玉》を生み出し、熱々の石にかけてやった。
その、瞬間だった。
ジュワッっっ! という激しい音と共に、白い蒸気がモクモクと立ち上がり、サウナ室を飲み込んだ。しかもその蒸気が……
「あ、あっつ! ちょ、熱すぎるわよこれ!」
「だ、ダメだ無理無理!」
あまりに熱いのだ。危険を感じたのか、リュカとティアラは脱兎の如く逃げ出してしまった。
一方、フィジカルお化けのクリスタはというと、意外なことにこの熱さには流石に勝てないのか、ダラダラと汗を流していた。
気がつくと、私の体からも汗が滲み始める。これが噂に聞いていたロウリュか。恐ろしいな……。
灼熱の中、何分が経ったことだろう。1秒が10倍にも感じる。
私は対面のクリスタを見つめた。その視線に気がついたように、クリスタはニッと口角を上げた。
その時、確信する。この女、私より先にサウナ室を出る気はないのだ、と。
要は……我慢比べ、根性勝負。そういうことだろう。いいさクリスタ、あんたのご主人様に「負け」という言葉は許されないってとこ、見せてやるよ!
5分……10分……20分……
熱々の石にたびたび水をかけ、灼熱を生み出しながら私とクリスタは向かい合って汗を多量に流していた。もう足元の木材は汗で色が変わってしまっている。
「ふふ、ドロリス様、そろそろ上られてはいかがでしょうか」
「クリスタこそ、私のペースに付き合う必要はないよ?」
「いえいえいえ、ドロリス様こそ私のペースにお付き合いいただかなくて大丈夫ですよ」
バッチバチだ。
お互い負けず嫌い。いや本物のドロリスは「くだらない」と吐き捨てる勝負だろうけど、少なくとも私は隠れ負けず嫌いだ。
クリスタは威勢よく立ち上がり、そして私の隣へ腰掛けた。
「ふふふ」
「へへへ」
謎の笑い。お笑い芸人のオー○リーさんかな? って笑いを済ませた。その瞬間だった。
「きゅぅぅ」
「く、クリスタ!?」
急にクリスタが倒れ、私の太ももへ銀色に輝く頭部を預けたのだ。
ったくもう! ドロリスに挑もうなんて無茶するから!
「ドロリス様〜汗……舐め……」
「クリスタヤバイって! シラフに戻ったとき死にたくなること言ってるって!」
確かにずっと思ってたけど。(うわ〜この美少女4人の汗から抽出した塩で天ぷら食いてえ)って! でもそれは胸の内に秘めておくものだから!
それから私は駆けつけたリュカ・ティアラと共に、のぼせたクリスタを介抱したのでした。
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