第35話 掘り当てました!
「というわけで、水魔法を細かく分散させることにより、シャワーのような魔法が使えるわけです。これにより大きな農耕地に均等かつ迅速に散水することが可能になります」
通りかかった魔法教室を覗いてみたら、思わずジッと長見してしまった。
エスメラルダの堂々とした立ち振る舞い! いや〜たまらんねぇ! 可愛い女がかっこいい女の片鱗を見せる瞬間。いや〜癖ですわ〜〜。
エスメラルダの授業は順調なようだね。たった4・5日でよく慣れたものだよ。
さて、私はティアラに呼び出されているんだった。思えばティアラに会うのは久しぶりな気がする。何の用事だろう。まさか……ついに初夜が来てしまったのか?
なーんてね。ティアラはそんなことしない。どうせ期待させるだけさせて、ただの研究に決まってるよ。
私は『解放厳禁』の張り紙が無くなった鉄扉を開けて、ティアラを呼ぶ。
「ティアラー」
私の呼びかけに応じて、ティアラはパソコンからひょっこり顔を覗かせた。
「来たか。じゃあ脱げ」
「…………初夜だーーーー!」
もっとしっかり歯磨きしておけば良かったー! 乙女心ー!
「落ち着け。お前はバカか? いやバカか」
「爆速自己解決! ひどいよティアラ〜」
ティアラは白衣を翻し、私の元へテクテクと歩いてくる。
途中、歩幅が小さいことに気がついて私としてはニンマリだ。たぶんキショい顔してる。
「この村の地脈に変な魔力反応があった。そこでお前……というよりドロリス・シュヴァルツの魔力を借りたい」
「ああそういうこと。いいよ」
詳しく何をするのかは知らない。頭の悪い私では聞いても理解できないだろう。
ここは妻を100%信頼して、任せてみようってもんじゃない。それに、もし変な魔力反応というのが事件を引き起こすようなら、事前に潰しておきたいしね。
私はティアラの指示通り脱いで、パンツも脱いだら顔を真っ赤にしたティアラに怒られるといういつも通りのボケもして、診察台に上がった。
「あれ? いつもの魔伝チューブじゃない?」
ティアラが持ってきたのは吸盤式の魔伝チューブではなく、何やら怪しげなホースの先端に針のついたものだった。
「これでお前の魔力を吸い取る」
「え、それって痛い系?」
「いや、ドロリス・シュヴァルツの肉体で痛みを感じるほどではないはずだ。奴も以前、涼しい顔で魔力を提供してくれたぞ」
「ちょ、ちょっと待って落ち着いて」
「私は落ち着いているが。いつも興奮しているのはお前だろう」
ちょっと待ってよ。私てっきりいつも通り魔伝チューブを使うと思っていたのに。
今回は針って……ええ!?
「何をそんなに狼狽している。さっさと横になれ、針が刺せん」
「わ、」
「わ?」
「私はその……注射が苦手なの!」
「……くだらない、さっさと! 横に! なれ!」
「いーやー! 犯される〜!」
「その逆はあっても私からはあり得ない!!」
一悶着している間に結局ティアラに捕まってしまった。こういう時、医者や研究者が本来以上の力を発揮するのはなぜだろう。
「はい、チクッと刺すぞ」
「んにゃぁぁぁあ!」
痛くない。全然痛くない。
しかしっ! 気の持ちようという言葉がある通り、私はそれが逆に作用していた。注射器の痛みというステレオタイプな考えが、脳から体に伝わり、確かにチクっとしたのだ。気のせいなどではない!
というか……
「長くない!?」
「悪いがかなりの量の魔力を吸わせてもらう。地脈に浸透させるには、それなりの魔力量を要するからな」
「うー、後でご褒美のキス」
「馬鹿も休み休み言え」
この前してくれたくせにー
とは言わなかった。
5分ほど経って、ようやく体から針が抜かれた。どれだけの魔力が吸われたかと思い立ち上がると、貧血のようにフラッときた。
「お、おい!」
そんな私をティアラが支えてくれた。
「多量の魔力を吸った後に立ち上がるバカがどこにいる」
「ご、ごめんティアラ、ありがとう」
ティアラはふらつく私をソファまで寄り添ってくれた。
「じゃあ私はドロリスの魔力を地脈に流し込むから待っていろ」
「何していればいい?」
「……寝てればいいが」
「はーい。ぐぅ……」
「バカという生き物はそんな一瞬で寝落ちできるのか」
もちろん狸寝入りだ。とはいえ、寝ようと思えばすぐ眠れそうだけど。
チュッ
!!
唇に確かに触れた、柔らかく温かい感触。
「ふん、バカめ」
そしてティアラの捨て台詞……
もう、ツンデレさんなんだから。
「おい、起きろ黒雛心!」
「むにゃ……」
ありゃ、本当に寝ちゃってた。あれだけフラついていたら仕方ないよね。
「地脈の異変が分かった。外に出るぞ」
「えー? 私まだ頭が……あれ?」
「ドロリス・シュヴァルツは1時間も寝れば魔力がすべて返ってくる。そういう仕組みになっている」
「すご、さすがドロリス」
「そんなことより早く外へ!」
ティアラの慌てぶりに、こりゃ一大事だと悟った。
ティアラに案内された場所は田畑にもなっていない、ちょっとした平地だった。薄黄色の雑草が生い茂っており、特段おかしなところはない。
「ここがどうしたの?」
「ここの地面を1.5キロメートルくり抜け」
「ええっ!? そんな地下深くまで!?」
「ああ、早くしろ!」
ティアラは鬼の形相だ。ここは信じてやるしかないか。
「《サンドスプーン:爆天槍》」
槍の如きスプーンで、地下1.5キロメートルまで地面をくり抜いた。
瞬間、ドドッという音と同時に地揺れが発生した。
「ちょ、大丈夫なのこれ!」
「まぁ見ていろ。今にお前が喜ぶぞ」
「えー?」
待っていること、数十秒。
地揺れが少し激しさを増し、そして耐えきれないとばかりに……
ブシャー!
勢いよく水が吹き出してきた。ただの水ではなく、純白の湯気を立たせながら。
「まさかこれ、温泉!?」
「ああ、村民は気がついていなかったようだが、ここは大当たりの土地だったようだ」
とりあえず私たちは温泉のお湯が逃げないよう、魔法で水路を作り固めた。魔法は私が、物理法則の計算はティアラが行い、結婚後、初めての共同作業がこれになってしまった。ケーキ入刀したかったなぁ。
でも、温泉!
「あとは好きにしろ。まぁ村民の悪意を買わぬように、三役やらと話し合うんだな」
「う、うん。ありがとうティアラ!」
もしかしてティアラ、私を喜ばせるためにわざとメインの研究から外れて地脈を調べたの?
……以前ならまさかね。とか言ってただろうけど、たぶんきっとそうだ。
「ありがとう、ティアラ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます