第32話 夜這いと尾行と奇襲
「んっーーーー! やっとスローライフが送れる〜!」
思えばドロリスになって数十日。忙しない日々だった。
それもすべて、スローライフを送りドロリス配下とハーレムを築き上げるため。
まず王国に行ってアイリスを利用し、最強格の正義の魔女候補を生み出し、戦争を抑止する。これで私がスローライフを送る口実ができた。免罪符扱いしてごめんよと思いつつ、アイリスは主人公。つまり私と言っても過言ではないのである(過言)
アイリスがドロリス討伐に立ち上がらないとなると、大精霊魔術教会が立ち上がった。
私たちの主敵となる教会は、上位存在「精霊」を降臨させられる。裏設定ガイドブックによると、精霊とドロリスは互角らしい。戦うと世界が半壊するのだとか。
半壊した世界で女とイチャコラできるかい!
ってことで、私たちはウィットリア公国領リンド村に引っ越したのである。
ここまでのおさらいご苦労様、私。いったい誰に向けておさらいしたのかは分からないけども。
「とにかく! 明日から念願のスローライフだ!」
しかしなぁ、私の中ではスローライフ=ニート ってわけでもないんだよなあ。
メリハリあってこその人生。その波が程よい大きさなのがスローライフ。そう思っている。
だから私はモブ配下さんたちにこう命じた。「村で剣術や魔法を習いたい人を集めて」と。
モブ配下からドロリスに名前を覚えられたネームドキャラになったエスメラルダを魔法学級の講師とすることにした。私はそこに手伝いに行く。
剣術指南は、もちろんクリスタに任せた。クリスタも腕が鈍ることを恐れていたようで、相手ができるのは僥倖だったらしい。
で、ティアラは引き続き命や魂についての研究。リュカは……知らん。たぶんニート。
コンコンコン
「ん?」
各々の生き方について推察してたら、部屋のドアがノックされた。
「はいどうぞー」
「こんばんはドロリス。夜這いに来たわよ」
「帰ってもろて」
「何でよ! 最近私の扱いが雑じゃないかしら?」
だって雑なことしか言わんだろう、リュカは。
「で、本当は何の用なの?」
「まぁまぁ、ベッドに座らせてもらうわよ」
「ふーん。じゃ私はリュカの隣に座る」
「えっ」
「何驚いてんのさ。夜這いに来たんじゃなかったの?」
「〜〜〜もう!」
リュカは顔を赤くして私を突き飛ばした。やはりこの女、自分が攻めるのはいいが攻められるのは弱いのだな。ひひひ、愛いやつめ。
突き飛ばされた私はわざとベッドに寝転がり、リュカを誘うような視線を飛ばした。
「……ドロリス、それ冗談じゃ済まないわよ」
「大丈夫だよ。いざ襲われても私の方が強い」
「…………」
リュカはムスッと不機嫌そうな顔をした。そこは受け入れろよ、ということだろう。
「で、本題は?」
「ちょっと夜景を見に行かない? リンド村について調べる上で、規模感とか知っておきたいもの」
へえ、これはちょい驚き。まだ諜報活動はしてくれるんだ。
リュカはこう見えて、かなり真面目な子だ。ドロリスのために働くという気持ちは不変のようだね。
「いいよ、じゃあ外に行こうか」
私たちは冥血城を出て、ほんのり肌寒い夜のリンド村へ踏み出した。
瞬間、リュカがぷるぷる震えているのがわかった。そんな大胆に胸元おっ広げて、限界ギリギリのスリットを入れたスカート履いてたらそうなるっての。
「はい、寒いでしょ」
私はドロリスが好んできていたコートをリュカにかけてあげた。
「ドロリス……もう、惚れ直すわよ」
「いいじゃん。ハーレム作りにはもってこい」
それにしても静かな村だ。しかし田畑が村の大半を占めているから、夏には虫の声がすごいかもね。防虫の魔法もしっかり教え込んでおこう。
「ねえドロリス」
「うん分かってる」
何者かに尾行されている。
ティアラやクリスタ……にしては下手くそだ。たぶん、リンド村の住人だろう。
「どうする? サクッとやれるけど」
「事件化は避けなさい。何か他の案ないの?」
「諜報活動では尾行は日常茶飯事よ。オーケー、私の言うとおり動いてくれる?」
リュカの言葉に従い、私は単独で家屋でできた十字路を左折した。ちなみにリュカは直進。
尾行している人間は一瞬立ち止まったものの、私の方についてきた。
5歩進んで、振り返る!
「ばあ」
「ひぃ!」
尾行していた人間は尻餅をついた。慌てて逃げようとするも、その先には直進したと見せかけて私についてきたリュカの姿が。
リュカの作戦、どんなものかと思えば小学生でもできる挟み撃ち作戦だった。まぁ、基礎が大事ってことなのかな。
私を尾行していた犯人は子どもだった。黒髪をお団子にして、褐色の肌に麻布を纏う少女。
「私に何か用かな?」
なるべく優しく話しかけたつもりだった。が、少女は泣き出してしまう。
こりゃ参ったな……と思ったら、ボン! と頬に火の玉が当たった。
「ドロリス!?」
「平気。この体にこの程度の魔法じゃ火傷すらしないよ」
泣き真似か。涙は女の武器とはよくいったものだ。
「あ、アタシはミリュエム・マリアンヌ! この村唯一の魔女の娘よ!」
マリアンヌ。はてどこかで聞いた名だ。
あぁ、確かこの村の三役の1人だ。あの褐色肌が印象的なセクシーお姉さん。あの娘ってことか!
「悪の魔女は成敗!」
続けざまにミリュエムは魔法を撃ってきた。
うーーん、ややこしい状況だ。でもまあいい、
冥血城の魔法学校、その生徒第一号確保チャンスとも言えるから。じゃ、やったりますか!
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