第30話 プレゼント

「《ドロリスゲート》」


 不測の事態に備え、警戒体制のクリスタ。

 早くも新地での味見先を期待していそうなリュカ。

 この場を離れることが名残惜しそうなティアラ。


 幹部の反応は様々だけど、私たちは今朝、引っ越しを決行した。


 冥血城そのものに魔法をかけ、ドロリスが用意していたゲートへと飛ぶだけ。まさか南方にもゲートを開いているとは、用意周到なことだ。


 警戒も、期待も、名残惜しさも一瞬のこと。


 まばたきの間に、冥血城およびドロリス配下たちはウィットリア公国の西側地域、その川沿いへと転移した。


「ここが……」


「ウィットリア公国」


 大陸南西に位置するここは、中央部と比べて気温が少し高い気がする。


 ティアラとリュカを地下に残し、私とクリスタ、そしてウィットリア公国出身のモブ配下、エスメラルダと3人で地上の城へ向かう。


 そこから見えた景色は、まさに圧巻。


 社会のフルカラー教科書で見た、アメリカのような大規模農場が広がっていたのである。


「すっご〜」


「ドロリス様、警戒を。見られています」


「そりゃ突然城が現れたら誰だって見るって」


 でもクリスタの陰に隠れさせてもらおう。なんか良い匂いするし。


「ドロリス様、クリスタ様、私が一度住民たちに話をつけてこようと思うのですがいかがでしょうか」


 エスメラルダは強い瞳で、私とクリスタを見つめた。


 あんなに弱気だった子が、こんな顔をするなんて。自分の故郷だからと、責任を感じているのかもしれない。


 でも、適度な責任は悪いことではない。むしろ人を成長させる……的なことを中学時代の塾の先生が言ってた。


「うん、任せたよエスメラルダ。でも念のためこれを」


 私は紫色の金属製ブレスレットをエスメラルダに渡した。


「こ、こちらは?」


「エスメラルダがそれに魔力を込めれば、私がすぐに駆けつける。そういうアイテムだよ。何か危険があったら迷わず躊躇わず、魔力を注いでね」


「な、なんと! 至らぬこの身にご厚情、感謝の言葉もありません!」


「じゃあ気をつけて。よろしくね、エスメラルダ」


「はい!」


 エスメラルダは城から降りて、すぐ近くの小さな家屋へと駆け出していった。


「配下の成長とは良いものですなあ」


「むっすー」


「……どしたのクリスタ。頬膨らませて」


「私、ドロリス様から何かを頂いたことないです」


 え、拗ねてんのこの子。


 可愛い〜けどちょい重っ。


 でも晴れて彼女になったわけだしなあ。プレゼントなしってわけにもいかないか。


「じゃあクリスタには私のとっておきをあげよう」


「と、とっておきですか?」


「うむ! 大事にしてね」


 私はドロリスの有しているアイテムをすべて把握している。


 もちろんこの世界に来てから確認はした。でも生前から、主要キャラクターたちのアイテムチェックは怠っていないのだ。


 その中に、ドロリスには見合わないものがあった。一体どこで使うのかと監督に質問したオタクがいたけど、答えはこうだった。


『えー? まあ考えてなかったけど、好きな人にプレゼントする時に持っていたんじゃないですか?笑』


 と。割とテキトーである。


 それがこちらだ。


「クリスタ、少しお辞儀して」


「は、はい」


「じゃあ動かないでねー」


 クリスタの頭につけたそれは、ヘアアクセサリー。

 ドロリスカラーである紫色の金属で編まれた、蝶々のアクセサリーだ。


「はい鏡」


「これは……」


「うん、クリスタの銀髪と紫色ってよく映えるね。可愛いよクリスタ」


「〜〜〜ッ! あ、ありがとうございます!」


「大事にしてね。ちなみに蝶々の中央ボタンを押すと魔力が増幅して強くなれるから」


「……ドロリス様、失礼ながら情緒がないかと」


「えー! 本当に失礼!」


 ゲーム脳がだめだったか。便利なバフアイテムだと思うんだけどなあ。


 そうこうしている間にエスメラルダが帰ってきた。何やら村人を3人連れてきている。


 さて、念願のハーレムスローライフは目の前。そのためにちょっとだけ頑張りますか。

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