第28話 ウィットリア公国
「うぃ、ウィットリア公国は大きな川を挟んで東西に分かれています。農業が盛んな西側地域と、魔法が盛んで首都もある東側地域です」
私のモブ配下の1人、エスメラルダによる丁寧な説明は幹部たちをうんうんと納得させた。説明上手いなこの子。
「はいはい質問! ウィットリア公国って私の名前、つまりドロリスの悪名は響いているのかな?」
この世界は広い。オープンワールドを謳うゲーム本編ですら、南側半分へは行けなかったほどだ。
ならば、ドロリス・シュヴァルツの悪名は及んでいない可能性もある。引っ越す上で、そこは重要なポイントだ。
エスメラルダはメイド服の裾をキュッと握り、申し訳なさそうな顔で答える。
「ま、魔法が盛んな東側地域では、恐れながらドロリス様の名も顔も広まっていると思います」
「ほほう、ということは」
「逆に言えば、西側地域にはドロリス様の名は広まっていない。ということですね?」
「ぴゃ、ぴゃい!」
「クリスタ、ちょっとトゲトゲしないの」
「わ、私はただ質問しただけで……」
いや〜緊張するって。奥手な子が校長先生・教頭先生・学年主任・担任に囲まれているようなものだよ。泣くよ、生前の私なら。
クリスタが弁明している間に、次は教頭先生……じゃなかった、ティアラがエスメラルダに問いを投げた。
「西側地域の住民の気質はどうなっている。我々を受け入れる土壌があるか?」
「だからー、トゲトゲしないの!」
「普通に質問しただけなのに……」
うちの幹部、リュカ以外みんな話し方にトゲがあるな。人はどうして偉くなると無意識の圧に気が付かなくなるのかねえ。だからパワハラが無くならないのか。おお納得、死んでから気づいても遅いけど。
「も、もともと西側地域は穏やかな人が多いです。でも最近では東側地域の人たちが西側地域の人たちを下に見るようになり、西側の人たちも怒っているんです」
「下に見る? なぜさ」
「魔法への無知からでしょうか、たぶんそこにあると思います」
「愚かね。食料を作り育てているのは西側の人たちだっていうのに」
リュカの言う通りだ。それぞれがそれぞれを支え合っているなら、そこに上下関係は生まれない。
「よし、私たちは西側地域に引っ越そう!」
「異論ありませんが、少し不安点がありますね」
「どんな?」
「西側地域が現在、魔法に対して負の感情を抱いている可能性が高いです。そこにドロリス様のような魔法界の神様のような方が現れると、その……」
「神様って、んな大袈裟な」
「いや、そこの銀髪の言うことも一理ある」
「誰が『そこの銀髪』ですか!」
クリスタとティアラ……相変わらず相性が悪い。
私がティアラに続けてと言うと、彼女はほんのり頬を赤めて言葉を紡いだ。
「ドロリスは魔法ですべてを解決する女だ。引っ越しもそう。魔法で冥血城ごとワープする気だろう? そんな大魔法を挨拶代わりに使っては、印象は悪いだろう」
「た、確かに」
「じゃあこうすればいいんじゃない? 西側地域の人たちに催淫を……」
「余計にややこしくなるわ!」
「冗談よ。西側地域の人たちに魔法を伝え教える伝道者になればいいんじゃないかしら」
「ほ、ほう?」
「魔法って農業にも使えるでしょ? 私たちは農耕用の魔法をいくつか教えてあげて、西側地域の人には農業を教えてもらう。WIN WINじゃない?」
「いいねそれ。リュカにしてはナイスアイデアだよ」
「ちょっと聞き捨てならないけど、まあいいわ。お姉ちゃん褒められて気分いいもの」
「エスメラルダ、それでどうかな?」
「い、いいと思います。西側地域の人たちにとっては魔法を覚えれば東側地域の人たちに馬鹿にされることもないですし」
「決まりだね。あとは細かい住所はエスメラルダに任せるよ。さぁみんな私たちは明日の朝、ここを離れウィットリア公国に引っ越すよ! 各々準備に取り掛かれー!」
勝鬨を上げるように、みんなワアッと歓声を上げた。
その中で1人、ティアラだけがその輪から離れ、地上へ行く姿を捉えた。
「……妻として、ここは一緒に行ってあげるべきかな」
私はその後にこっそりついていった。
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