第27話 引っ越し先
「さあ引っ越しだよ!」
ティアラと結婚し、クリスタとお付き合いを始め、リュカとは特に何もなかった翌日。私は高らかに宣言した。
ちなみに昨晩ティアラの元へ枕を持っていったら、「そういうことはまだ早いわこの変態!」と追い返されてしまった。「まだ」ね。と思うと顔がニチャ〜ってなる。キショ私。
そしてそんなティアラは、なんと現在リビングにいる。クリスタ曰く、こんなこと初めてだそうだ。私もゲーム本編含め、ティアラがあの鉄扉の奥から出てきた記憶などパンツ作戦のあの日しかない。レアだ。
「引っ越し自体は簡単にできる。私の魔法で冥血城ごとひとっ飛びだからね。ただ問題は、どこへ引っ越すのか。その場所だよ」
タイミングよくクリスタが立ち上がり、ホワイトボードを用意した。そしてペンを取り出し、簡易的な世界地図を描いてくれた。よくできた右腕だ。
クリスタの描いた地図はゲームで見た通り。意外と絵心もあるんだね。
「我々は現在、大精霊魔術協会に目をつけられています。教会が降臨させられる精霊は、この世界を半壊させてしまうほど強力です」
「だから戦わない。逃げるが勝ちってわけよ」
「……つい先日まで魔女の救済のため、世界を壊すって言ってた人と同一人物とは思えないわね」
ぎくっ。リュカめ、勘のいい女は嫌いだよ……
クリスタはリュカの小言を流し、ティアラもポーカーフェイスを貫いた。よくできた彼女と妻だ。
「まず4大国から離れた方がいいですね。教会の影響力は4大国に及んでいます」
「教会が飼ってる魔術師が強すぎて、4大国すべてに使者がいるからね」
Eden本編でも最初はそいつらにいじめられたな〜。まあエンディング後にボコってやったけど。
「となると、4大国が睨み合う大陸北部から南下する必要があるでしょう」
「目指すは大陸南側か」
Eden本編の地図にも大陸南方は載っていた。しかしゲーム特有の見えない壁で、そこから先には進めなかった。
監督曰く、「世界が広がりすぎて流石に北半分に収めた。小国が乱立してないのは不自然だから、南に固めたという設定だけはあります」とのこと。
「発言いいか?」
「ティアラ、いちいち許可取らなくても大丈夫だよ」
「そ、そうか。その、南方小国郡は魔法も文化も広がっていない箇所が多い。しかし土壌には優れているため、自給自足でやっていくには問題ないだろう。そこで一つ提案がある」
「提案?」
「大陸南西の小国、ウィットリア公国領に大きな川があるはずだ。その川沿いを提案する」
「なるほど、確かに農業に水は必要不可欠だね」
魔法で水は出せるけど、モブ配下さんたちの食べ物も作るとなると田畑は広大になる。それ全部に枯らさないよう繊細な水魔法を使ったら1日が終わってしまう。
そんなのスローライフじゃない。川沿いには大賛成だ。
「誰かウィットリア公国に行ったことある人、いる?」
モブ配下さんたち含め、誰も手を挙げなかった。詳しい人が欲しかったけど、それは仕方ないか。
すると影に潜むモブ配下さんたちがザワザワとし始めた。なんだなんだ?
「ドロリス様。不肖この私めに発言許可をいただけませんでしょうか」
「おお! 初会話だね。どうぞどうぞ」
「痛み入ります。私はドロリス様一般配下が1影、パパスタソと申します。我らの一員エスメラルダが、ウィットリア公国の生まれと報告させていただきたく発言いたしました」
「エスメラルダ?」
聞いたことねえ。だからモブなんだけど。
しかしウィットリア公国生まれがいるとは心強い。でもさっき聞いた時出てきてくれればよかったのに。
「エスメラルダ、姿を見せてくれるかな」
「は、はい……」
すうっと影から出てきたのは、気の弱そうな白髪の少女だった。
寝癖だろうか。ふわふわクルクルの白髪は肩にちょうど当たるくらいの長さで巻かれており、なんだか小羊のような愛らしさがある。そこに給仕服、つまりメイド服を着ているのだから萌えだ。
すぅーーーー、モブも可愛い子いるじゃねぇかぁ! やるなあドロリス。
感慨に浸っていると、エスメラルダが困った顔をしていることに気がついた。
「あ、ごめんねエスメラルダ。率直に聞くけど、ウィットリア公国の生まれってのは本当?」
「は、はい。ウィットリア公国の田舎村で生まれました」
エスメラルダはなぜか申し訳なさそうに事実を述べている。今にも泣きそうだ。や、やりにくい……。
「じゃあウィットリア公国について詳しく説明してくれないかな。私たち誰も知らないからさ」
「ぴ、ぴぃ!?」
ぴぃ?
「エスメラルダと言いましたね。あなた何をそんなに怯えているのですか」
「あーもうクリスタ噛みつかない! エスメラルダが怯えてるでしょ」
「なっ……私が叱られるのですか!?」
「クリスタはハッキリしないものに当たりが強いなあ」
「だ、だってドロリス様の御前でこの態度、許せるはずが……」
「エスメラルダ、そんなに怯えなくていいからね」
「も、申し訳ありません。みなさまの前だと緊張してしまいまして……」
可愛いかよ〜。
でも本人からしたらたまったものではないだろうね。蛇に睨まれたカエルの気分だろう。
「幹部たち殺気をできるだけ無くすこと! じゃあエスメラルダ、よろしくね」
「は、はい……」
エスメラルダはおずおずと言葉を紡ぎ始めた。
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