第26話 ハーレム計画

 冥血城リビング


 ここは「悪の」という冠詞がつくとはいえ、幹部たちがのんびり過ごせる憩いの場だ。


 しかしそのリビングが、現在ピリついている。


 それは私の「ティアラと結婚しました〜」という報告から始まった。


 最初に口を開いたのは、意外にもクリスタだった。


「ど、ドロリス様っ、けけけ、結婚というのは……」


「結婚とは、配偶者と呼ばれる人々の間の、文化的、若しくは法的に認められた繋がりの事で、配偶者同士、その子との間に権利と義務を確立する行為である」


 参照:ウィキ。便利だよね。


 しかし私の態度は、クリスタをさらに憤慨させてしまった。


「そういうことを聞いているのではありません!!」


「そ、そうだよね。わかってるわかってる」


 私はしっかりティアラと結婚した経緯を伝えた。


 ・ティアラの背負う責任をなくしてあげたい

 ・ティアラが自身を末裔だと悔やむなら、私がティアラと結婚して彼女が研究して、国を再建する方法を探し出す

 ・そもそも私はティアラのことも、みんなのことも好きだ


「な、なるほど」


「ドロリス、貴女が結婚とかもう無茶苦茶よ」


「そう? 結構ウキウキしてるよ私」


 これから寝室とか共有するのかな、とか考えるとワクワクが止まらねえなぁ!


「にしてもお姉ちゃんビックリしちゃった……まさかノーマークだったティアラに奪われるとはね」


「ま、待ってリュカ落ち着いて。般若の顔にならないで」


 綺麗な顔が台無しだよ。と付け足せば般若の顔はリュカの顔に戻った。見てくれは良いんだから、そこを損なうとマジでもったいないよ。


「コホン、みんなには言っておかなきゃいけないんだけどさ」


 丁寧な前置きをした。こういう時、人間は後に都合の悪い言葉、もしくは最低なことを口走るものだ。今の私は後者。


「私はいずれ、みんなとも結婚したいと思ってる」


「えっ!?」


「ドロリス様っ!?」


 幹部たちに困惑が広がった。しかしそれと同時に、2人とも歓喜するような魔力が滲み出ていた。


「ティアラとの結婚も長い目を見て進めたかった。でもタイミング的に今日しかないと思って、半ば強引に結婚した。もちろん嬉しいことだし、ティアラも私のことは嫌いじゃないみたいだから受け入れてくれた」


 ティアラにとって利のある結婚だからね。とはいえ政略結婚とも違い、愛も少なからずあるという何とも複雑な結婚だ。


「みんなに伝えておきたいのは繰り返しになるけど、私はクリスタともリュカとも結婚したい。ちゃんとしたムードを作って、ちゃんとお付き合いする期間を設けて、ちゃんとデートしてお互いの知らなかった一面を知って、結婚したい」


「ドロリス貴女、ハーレムを作る気なの?」


「YES! ハーレム王に私はなる!」


 リュカは乗り気のようだ。呆れてはいるけど。でも、鼻歌混じり。いつか来るその日を楽しみにしているようだ。


 一方クリスタは少し俯いて、未来を想像しているようだった。


「クリスタはどう? こんな軽薄な私に幻滅した?」


「いえ。英雄色を好むと言います。まさにドロリス様は英雄です。伴侶が何人いても不思議なことではありません」


「う、うん。ありがとう」


 そこまではっきり言われると照れる。いや私じゃなくてドロリスに対しての賛辞なのは分かってるけど。


 が、クリスタの瞳に涙が浮かんでいると気がついた時、サッと血の気が引いた。


「ど、どうしたのクリスタ! 何か気に触ること言ったかな? いやまあハーレム宣言したんだからそりゃそうなんだけど……」


「い、いえ。その……」


「クリスタ吐き出しなさい。後が楽よ」


 リュカのアシストもあり、クリスタは一度のどを鳴らして深呼吸した。


 そして、思ってる4倍くらい大きい声で、叫んだ。


「私がドロリス様の一番妻になりたかったんですー!」


「え……えぇ!?」


 まさかのそっち!?


「ドロリス様と最初に出会った幹部は私です! ドロリス様に一番仕事を回されるのも私です! 先日だって右腕とおっしゃってくれました!」


「う、うん。言ったね」


「だったら……だったら私がぁ〜……最初の妻になると思うじゃないですか〜」


 クリスタは泣いた。

 結構ガチめに泣いた。


 重っ……でもありがとうクリスタ。その思いは嬉しいよ。そして、


「その願いを叶えられなくてごめんね。でもクリスタのことを一番頼りにしている事実は変わらないから」


「ちょっとー、抗議したいのだけどいいかしら?」


「リュカはいったん黙ってて!」


 後でよしよししてあげるから!


「……クリスタ、確かに結婚したのはティアラが初めてだ。でも実はお付き合いはね、まだ未経験なんだ、私」


 前世含めてね。


「だからクリスタ、私とお付き合いしてください。私の初彼女になってよ」


「ドロリス様……うわぁぁぁぁ」


「結局泣くんかい!」


 重いなあこの子。大丈夫かな。


 でもまあ、丸くおさまった、かな?


 ふと視界の端でニヤニヤしているリュカに気がついた。うわこれ絶対ろくでもないこと言うよこの子。


「初妻がティアラで、初彼女がクリスタ。じゃあ初の夜伽は当然私よね?」


 ほら見たことか。


「ノーコメントで」


「何でよ!?」


 冥血城のリビングに和やかさが戻ってきた。



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