第25話 百合ゲーだから百合結婚は合法だよ

「ティアラー!」


「またお前か。バカの相手は疲れる、さっさとどこかへ行け」


「ティアラがプリンセスだったこと、聞いたよ」


「…………」


 ティアラは眉間に皺を寄せた。


 そして訝しがるように、声を捻る。


「で?」


「ティアラが責任を感じる必要は……」


「私は一族の末裔だ。研究にかまけ、国が滅んだことに気付きすらしなかった。責任を感じる必要がない? バカじゃないのかお前」


「そ、それは……」


「黒雛心、お前とはここでお別れだ。さっさと行け」


「嫌っ!」


 拒むティアラの全身を、私はぎゅっと抱きしめた。


「やめろ離せ! 私がここを離れることは許されないんだ!」


「許されていい!」


 ティアラを抱きしめて、私は叫んだ。

 瞬間、ティアラの力が少し弱まった気がした。


「許されていいんだよティアラ。国が滅んだのもティアラのせいじゃない。残酷なことだけど、ティアラが地上にいたって国は滅んでた。違う?」


「だからこそ、一族の末裔としてここの地に残る責任がある!」


「末裔末裔ってねえ! あんた結婚する気ないの!?」


「な、なんだ突然!」


「答えて! 結婚するか、しないか!」


「するかボケ! だいたい誰とするんだ! こんな研究に明け暮れて、家事もせず、地下に引き篭もる女を誰が愛する! 私は誰にも愛されない!」


「私が!!」


 叫んで、抱きしめていたティアラの顔をじっと見つめた。

 ティアラの目は、赤く腫れている。


「私がティアラと結婚してあげる」


「……は、はあ!?」


 Edenは百合ゲーだ。


 当たり前のように、女性同士での結婚が認められているし一般化されている。もちろんヘテロ夫婦も多数登場するが。


 私がドロリスになって、スローライフを送ろうと思った時に考えたことがある。


 それは、配下たちみんなをハーレムの一員にして、みんなと結婚したい。そんな野望だ。


「お、お前はバカか!」


「ああバカだよ! ティアラや本物のドロリスに比べたら、バカで滑稽な生き物だよ私は!」


「ッ!」


 ティアラが勢いに押されている。

 詰めるなら、今しかない!


「でもバカだから、理想を語れる! 私の妻になれティアラ! そうすればティアラ得意の研究で、私との子どもの作り方でもなんでも調べろ! そしたらあんたは末裔じゃない! これからティアラの一族を繋いでいく、復活の狼煙をあげる女になるんだ!」


「…………」


 ティアラは呆気に取られたような顔で、ただただ静かに私の顔を眺めていた。


 そして、ツゥと琥珀色の瞳から雫が溢れた。


「……こんなプロポーズがあってたまるか」


「ちゃ、ちゃんとティアラのことは好きだよ。謎めいているところも全部、日本にいた頃から好きだった!」


 それはこのゲームの主要キャラクターすべてに言えることだけど。


「私の気持ちは? お前のことを愛しているとでも?」


「それは……わからない。逆にどうなのさ。ティアラはドロリスのことは何とも思っていなかったんでしょ? ドロリスが私になって、それは変わった?」


「お前はバカでお節介でうるさくてバカだ」


 バカ2回言われた。めっちゃバカやん私。


「でもそのバカさが、最近では……温かい」


「ティアラ……」


 ティアラは体重を私に預け、頭を私の胸に押し付けた。


「約束できるか? いつか私の研究が成せれば、この土地に帰ってくると。お前と結ばれ、何年かかったとしても、この地へ再び舞い戻ると約束するか?」


「もちろん。その時はサッカーチーム作れるくらいの子どもたちを連れて帰ってこようよ」


「……バカだなあお前は」


 ティアラは今日初めて、笑ってくれた。

 いやもしかしたら、私と初めての笑顔かもしれない。

 本当の笑顔という意味ではね。




 私とティアラは肩を寄せ合って、ソファに腰掛けた。


 え、これ妻? 私の妻?

 やべー、いったん肩に手回しとく? 興奮してきた。


 ティアラに触れると、その体の小ささを再確認した。こんな小さな体に、膨大な責任を背負っていたんだな……。


「お前は以前、この世界の者はすべて推していると言っていたな」


「え? うんそうだね」


「なら、私と結婚していいのか?」


「大丈夫大丈夫。この世界って多重結婚OKだもんね」


「……は?」


「うん確かそのはずだよ。だから大丈夫! 私のハーレム計画に揺らぎはない!」


 予想と順番は違ったけど。まさかティアラからとは。


 ティアラが黙ってるなーと思ったら、彼女は頬を膨らませていた。


「え、なに?」


「別になんでもない。このクソバカ」


 クソまでついた!?


「あ、もしかしてたった一人の妻がよかった?」


「べ、別にそういうわけじゃ……」


「照れなくていいのに〜。でもごめん。私はこの世界でクリスタやリュカとも、ハーレムを築きたいの」


「プロポーズ10分後によくもそんなこと言えたな」


「で、でも順番的に第一婦人はティアラだから」


「そういう問題じゃ……もういい。お前はバカだから、何を言っても無駄だろう。諦めた」


 今日何回バカと言われただろう。でも全然不快に感じたりはしない。

 むしろ愛を感じる「バカ」だ。


「それよりけ、結婚するにあたり、お前に伝えるべきことが2つある」


「伝えること?」


「まずは私の真名だ」


 そうか……普通は「クリスタ・クインテット」や「リュカ・エンテグラス」。そして「ドロリス・シュヴァルツ」のように、この世界の住人にも名字と名前がある。


 しかしティアラにはそれがない。ゲーム本編にも裏設定ガイドブックにも記されていなかった。つまりこれは、総監督すら知らないオリジナルのストーリー。


「うん、聞かせて」


「ティアラ・カラット。カラットは元は国の名前だ」


「カラット……綺麗な名字だね」


 素直に褒めると、ティアラは小恥ずかしそうに頬を染めた。


 そしてそれを誤魔化すように、2つ目は! と叫んだ。


「私のメイン研究の内容についてだ」


 ティアラの研究。それは多岐に渡るけど、メインの研究は初めて明かされる。


 ティアラの妻として、そしてこのゲームを愛した黒雛心として、知っておく必要があるだろう。


「私はずっと、私のクローンを生み出す研究をしていた」


「それは……国を再建するため?」


「私が私を生み出し、作り上げ、育てる。そうすればカラット女帝国は再建する。そう思っていた」


「これからはその必要はないね。だって私がいるから」


「……女同士での生殖も研究が必要だぞ。むしろ世界中の学者が頭を悩ませていることだ」


「大丈夫大丈夫。ティアラならできるよ。だって私の妻だもん」


「……なんだその根拠ない自信は」


 ティアラはまた笑った。


 そして黙って私を見つめ、


「一度しか言わん」


「え?」


「ドロリスには興味なかった私も、魂としてお前に興味を持った。世話焼きで、バカで、うるさいお前を日に日に認めていく自分に気がついた。そしてお前は今日、私の積年の鬱屈を取り除いた」


 前置きが長いな。何を言うつもり……


「お前のこと、結構好きだぞ黒雛心」


「えっ」


「え?」


「ちょっと! そういう大事なことはもっと耳を準備している時に言ってよ!」


「だ、だから一度しか言わんと言ったろう! その時に準備しとけアホ!」


「もう一回! ティアラもう一回!」


「言わんわ! ほら引っ越しするんだろ? ちゃちゃと候補地を決めないか!」


「は、はーーい」


 私はティアラに部屋を追い出されてしまった。

 どこへ引っ越すか、ティアラは干渉しないらしい。私に任せるってことかな。


 スローライフからの、ハーレム計画。


 まさかティアラが最初の結婚相手になるなんてね。


「でも……なんか嬉しいな、こういうの」


 心晴れやかなり。黒雛心、既婚者です。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ティアラ×心、結婚おめでとう!


これからハーレムも本番です!


あ、ご祝儀は下⤵︎の☆☆☆からいただけると……

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