第24話 ティアラの過去
「ダメだ」
アルダ村から冥血城へ帰還した私たちは、すぐに配下たちへ引っ越しの必要性を説いた。
大精霊魔術教会……ひいては精霊のヤバさはみんな理解していることなので、引っ越しに異議を唱える者はいなかった。
ただ一人、冥血城の主であるティアラを除いて。
「精霊の恐ろしさはティアラも知っているでしょ? もし降霊させれば、私を殺しに来るはず。まもとに戦えば世界の半分が吹き飛ぶという試算も……」
「だからどうした。私にとっては死ぬその瞬間まで研究していればいい。そもそも世界を壊すと言ったのはお前……いや、黒雛心には関係なかったな」
世界を壊すというドロリスの計画にも反対しなかったティアラだ。今さら世界が半壊するからって、心変わりはしないらしい。
「そもそもどうしてダメなの? 冥血城をそのまま移転させるからこの研究室は守られるし、新しい土地でも研究は続けられるはずでしょ?」
「だったらお前たちが出て行け。私を巻き込むな」
「ティアラ……」
こんなに強い拒絶は初めてだ。
私は一度説得を諦め、鉄扉の外へ出てため息を吐いた。
実はティアラは今でこそ主要な人物だけど、ゲーム本編では設定も胸も薄いキャラなのだ。だから過去何があったとか、何の研究をしているのか、私でさえ知らないことは多い。
「ドロリス様? いかがなされました?」
「クリスタ、いやちょっとね」
ちょうどクリスタが通りかかり、眉間に皺でも寄っていただろうか。心配をかけてしまった。
「話してください。私はドロリス様の忠実なる配下。どのような悩みにも微力ながらお力添えをしたいのです」
「クリスタ……」
銀色の美少女は静かに微笑んだ。
「ありがとう。実はね……」
私はティアラが引っ越しを拒否していることをクリスタに話した。
「置いて行けばいいじゃないですか」
「あー! そういえばティアラのこと苦手だったね!」
忘れてた! くそー、めっちゃいい雰囲気ですぱっと解決といくと思ったら罠ありだった〜!
「だいたいティアラ様はドロリス様に対して不敬が過ぎます。主人が望むことを叶えるのが、配下たる我々の仕事でしょうに」
「ティアラは配下では無いんじゃないかな」
「そこも気に食わないのです! まるで対等であるかのような立ち振る舞い……」
「あ、あはは……」
あれ? いつの間にか私が話を聞いている側になってね?
でも好きの反対は無関心っていうように、もしかしたらクリスタは私も知らないティアラの秘密を知っているかもしれないね。だって嫌いなくせに、意外とティアラのことよく知ってるし。
「ねえクリスタ、どうしてティアラは引っ越しを拒むのかな」
「それは……恐らくティアラ様がここの姫君だったから、じゃないでしょうか」
「何それ詳しく! kwsk!」
がっついた私にクリスタは少し慄いたけど、こほんと咳をして仕切り直した。
「今は林となってしまいましたが、かつてここは代々女王が統治する小国でした。ティアラ様はその王族の最後の末裔なのです」
「もしかしてティアラがここを離れたくないのは、自分に責任を感じているから?」
「でしょうね。自分は幼い頃から研究に傾倒し、地下室を与えてもらい、1週間研究に明け暮れていたら国が滅んでいたそうです」
冥血城は地下が本体なのはそういうことか。
ティアラが生き延びられるように、ティアラが好きなように過ごせるように、女王から与えられた、母からの愛の形だったんだ。
そしてこの土地を離れることは、ティアラにとって母すらも裏切る行為。
なるほど、引っ越せない理由がよくわかったよ。
「説得は不可能でしょう。研究データは惜しいですがティアラ様は置いていくのが現実的でしょうね」
「いーや、嫌だね」
「ど、ドロリス様?」
私も知らないティアラの過去が聞けて嬉しい反面、その過去が暗くて悲しくもなった。本人の悲しみはそれ以上だろう。
でもティアラをここに縛りつけてはダメだ。ずっとティアラが鎖に繋がれたままだと、あの子はずっと一人ぼっちになってしまう。
それこそ、ゲームですら深掘りされなかったキャラクターなのだから。
「ティアラは私のハーレムのヒロイン。絶対にティアラも一緒に引っ越す。ティアラが負う必要のない責任を背負うなら、そんなもん私が投げ飛ばしてやる」
「ど、ドロリス様……」
「よーっし、もう一度ティアラのところへ行ってくる!」
待ってなティアラ。あんたが責任を感じるのもわかるよ。
でも国が滅んだのも、最後の末裔になったのもあんたのせいじゃない。
なんなら自分が最後だなんて思わないで。あんたは研究者でしょ、だったら……
女同士でも子どもを産めるよう、研究しろってんだ! その相手に、私でよければなってやるから!
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