第21話 リュカの誘い
「ちょっとドロリス〜、お買い物に付き合ってくれない?」
ある日の昼下がり。
胸元を大胆に開け、スカートには深いスリットの入った爆乳痴女……もとい、ドロリス配下のお姉ちゃんポジション、リュカが私を誘いにかけた。
「リュカ、ドロリス様を買い出しなどという雑務に駆り出すとは笑えませんよ」
そんなリュカをクリスタが一喝した。
クリスタはリュカのことを仲間として認めているが、一方でその言動は気に入っていないらしい。リュカはドロリスのこと呼び捨てだしね。
「まあいいよリュカ。王国からの報告書にも目を通したし、暇だったからさ」
実はモブ配下さんたちを王国や世界各地に配置して、時折報告書を提出させている。これで世界で異変が起きれば駆けつけられるわけだ。何も起きてほしくないけど。
あとは純粋にアイリスの動向が気になっているのもあるね。予想通り、力をつけたアイリスは学園で一目買われ、仲間が出来始めているという。よかったよかった。
「で、お買い物ってどこで何を買うの?」
「近くにアルダ村があるでしょ? そこに口紅を買いに行きたいのよ」
「口紅? なんでまた」
「ドロリス知らないの? 今アルダ村には世界を騒がせるトップモデルのシュリが遊びに来ているのよ」
「へ、へー」
シュリ。はて誰だ。
いやなーんか覚えがある気もする。ゲーム本編の街並みで美容看板になっていた女。あれがシュリって名前だった気もする。
Edenをやり込んだ私でもこの認識だ。本編ではよほどのモブだったに違いない。
「反応悪いわね。クリスタなら知っているわよね?」
「知りません。興味もありません」
「えー、貴女たち素材がいいんだからもっとお化粧にもこだわりなさいよ」
「化粧したところで強くならないでしょう」
「何その戦脳は。本当に乙女なの?」
「失礼な人ですね! ドロリス様、この無礼者を斬ってもよろしいでしょうか」
「いいわけあるかい!」
意外だ。クリスタとリュカがこんなに言い合う仲だったなんて。
ゲーム本編ではリュカもクリスタもバラバラに登場してアイリスパーティにやられるんだもんなあ。そりゃ深い関係性までは読み取れないか。
「それでどう? クリスタはもう諦めて、ドロリスだけでもアルダ村に行かない?」
「うーーん」
化粧には興味ねえ。ドロリスはすっぴんで美しすぎるから。
とはいえシュリとかいうほとんど知らんモブが、この世界では名のある人というのは気になるな。接触したら、まだ知らないEdenの世界を知られるかもしれない。
「オーケー、行こうかな!」
「本当? ノリのいいドロリスは大好きよ!」
「はいはいそりゃどうも」
アルダ村は変装の必要がない。アルダ村にはドロリスに敵意を向ける人物がいないからだ。
元々アルダ村は魔獣の被害に長年悩まされていた村だった。ある日近くの廃城にドロリスが住んだことで、状況は一変。
魔獣はドロリスによって統制され、村は平穏を取り戻した。ゲーム本編では回復薬が取れる中継地点的な役割を担っていたね。
「んじゃ行こうか。クリスタ、城の管理は任せたよ」
「はっ。お任せください」
「あとお土産は口紅がいい? リップがいい?」
「ど、ドロリス様まで……私はそういうのに興味は……」
「えー! 絶対可愛くなれるのに」
「うっ」
「可愛いクリスタが見たいなあ。プルプル唇のクリスタ見たいなあ〜」
「う、うぅっ!」
「もしそんなクリスタを目の前にしたら……思わずチューしちゃうかも」
「り、リップでお願いします。なるべく目立たない色の」
「はーい♡」
ちょろいもんだぜ。
「もー、クリスタなんてほっといて、早く行きましょうよ」
「はいはい。アルダ村まで何分くらいだったっけ」
「貴女が本気を出せば30秒で着くでしょうけど、普通に歩けば20分ちょいってところね」
「オーケー。じゃあ普通に歩こうか」
こうして私とリュカのアルダ村デートが始まった。
◆
『シュリ、そちらの状況はどう?』
「問題ありません。村の住民はみな、化粧品を疑わず購入しています」
『よし。引き続きドロリスの名を使って売るように。アルダ村をドロリスから解放するわよ』
「はっ、マイロードよ」
シュリは銀のT字アクセサリーを固く握った。
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