第17話 魂の行方

「ってことがあったわけよ!」


 エルカ王国で起こった様々なこと。


 本編では主人公の仲間になるウィルリーンと出会ったこと。


 ドロリス配下のリュカを発見し、そのリュカがアイリスを味見(意味深)していたこと。


 そしてその関係性を利用して、アイリスを一段階覚醒させたこと。


 それらをすべて打ち明けた。……目の前で眉間に皺を寄せる研究者、ティアラに。


「お前、無茶苦茶だな」


「そう? クリスタとリュカや他の配下たちは、戦争に至る未来を望んでいないからドロリスに従っていたわけでしょ? でも私はそのために悪役になって討伐される未来を待つのも嫌。だからスローな生活を送るための免罪符を得た、っけわけ」


「だから、それが無茶苦茶だと言っている」


 そうかな? うーーん……そうかも。


「お前は以前この世界を好きだと言っていたな。しかし少なくともアイリス・ホワイトという、ドロリスを倒し得る魔女の人生は特に大きく変化したはずだ。それについて心を痛めることはないのか?」


「ないよ」


「即答か。意外だったな」


「なに? 心配してくれているのティアラ〜可愛いよ〜ティアラ〜」


「や、やめっ! くっつくなアホタレ!」


 ティアラの小さなお手で引き剥がされてしまった。

 もう少しモッチモチのほっぺを味わいたかったのに〜。


「まあ寂しくない……といえば嘘になるかな。心痛めるまでは言い過ぎだけど。ゲームで築き上げた仲間関係が変わるのは、寂しい気持ちもあるよね」


「なら……」


「でも寂しいかを決めるのは私じゃない。この世界の、ゲームから離れ、オリジナルの人生を歩き始めたアイリス・ホワイトだから」


 そして彼女は、決して悲しんだりしない。


 だって彼女は、主人公なんだから。


「……ある意味、ドロリス配下たちの盲信に似ているところがあるな」


「えへへ、アイリスは私の分身みたいなものだからね。理解しているつもりだよ」


「さて、お前の精神が平気なら大丈夫だ。本題に入ろう」


 本題ってなんぞ。帰ってきた途端、急に呼び出されて来ただけなんだけど。

 ってか早く寝たいんだけど!?


「私はずっと一つの研究をしていた。現在、黒雛心の魂がドロリス・シュヴァルツの体に入ったわけだが、肝心の奴の魂がどこに行ったのか、だ」


 少し産毛が逆立つ思いがした。


「もしかして誰か別人の体に、ドロリスの魂が入ってる可能性があるってこと?」


「その可能性が大いにあると思い、私は研究した。見ろ」


 ティアラはパソコンの画面を私に見せてきた。この世界、パソコンあるんだ。どうやってネット検索するんだろ。きっと魔力で繋いでいるんだろうなあ。


 画面にはドロリスの体を覆うように青いモヤモヤが写っており、なんとなく私の魂なのだと理解できた。


「この通り、ドロリスの体から奴の魂は綺麗さっぱりなくなった。代わりに入ったのが変態だ」


「私の代名詞って変態なの?」


「魔伝チューブで魔力の変質を読み取ったが、量・質共に変化なかった。つまりお前は黒雛心の魂のまま、ドロリスの体を乗っ取ったというわけだ」


「分かっていたことだけど、科学的に確定されると重みが違うね」


「ドロリスの魂はこの世界から消滅したのか。それともこの世界のどこか片隅に、奴の魂は生きているのか」


「…………もし生きていたら?」


「奴のことだ、確実にお前を殺しにくるぞ」


「ひぃぃ! ティアラ助けてぇ〜」


「……緊張感がないな、お前は」


「だって心配したって仕方がないでしょ。それにドロリスの体になった私が最強なように、他の体になったドロリスは弱体化しているはず。そう簡単に殺されやしないよ」


「確かにそれはそうだな」


 ティアラはんーーっと伸びをした。


 もしかしてこの子、ずっと私のために魂の研究をしていたのかな。


 ……まさかね。ティアラは基本、自分のためにしか動かない子のはずだから。


 そういえばティアラの研究については裏設定ガイドブックでも謎に包まれていた。監督曰く、「そこまで考えつく頭が僕になかったです」とのこと。


「ねえティアラって普段どんな研究をしているの?」


「お前には関係ない」


「なくはないでしょ。魂の研究なんて私ドンピシャじゃん」


「話をしたところで理解できるわけがないだろう」


「もう! 強情だな……パソコン見せて」


「あっ! こら、待っ……」


 ティアラが大慌てで私からパソコンを奪い取ろうとする。


 もみくちゃになって、検索エンジンの履歴ページへと移ってしまった。


『日本人 好きなもの』

『日本人 魂と宗教観』

『日本人女性 好感度』


「あ……あぁ……」


 ティアラがどんどん赤くなっていく。さながら鍋に入れたカニのようだ。


「ティアラ……もしかして私と仲良くなるために時々検索してるの? 不器用可愛いー!」


「だ、抱きつくなー! お前のことなんて嫌い! 嫌いだ!」


「もう、正直じゃないな〜」


「ぐぬぬぬ……やっぱり奴の方がマシだった!」


「そんなこと言って〜、私のこと好きなくせに〜」


 あー! と叫んで、ティアラは私を研究室から追い出した。


 素直じゃないんだから、まったく。


 でも……ドロリスの魂の行方か。


 もし仮にドロリスがまだこの世界に残留しているのなら、私のハーレムスローライフ生活に影響が出るよね……。


 いや、それは歓迎されるべきことか。


 ドロリスが生きているなら、ドロリスもハーレムに加えればいい。だってドロリスもまた、私の愛したEdenのキャラクターの1人なのだから。


「さっ、明日からスローライフを満喫しますかね〜」

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