第13話 魔女ギルドにて
「久しぶりのエルカ王国、楽しみだね未来ちゃん」
「そ、そうだすねド心さまちゃん」
ついにエルカ王国入国を果たした私たち。
身バレ防止のために私は変装魔法で黒雛心の姿になり、そしてクリスタとは互いに呼び名を変えている。
クリスタ→ドロリスはそのまま「心ちゃん」と。
私→クリスタは声優さんの名前を取って「未来ちゃん」と呼ぶことにした。
ご覧の通り、クリスタはこういう演技が苦手なようだ。なんだド心ちゃんって。
「にしてもリュカはどこにいるんだろ。拠点としている部屋は教えてもらってないんだよね」
「そ、そうだよ心ちゃん」
ぎこちねえ……でもそれが『萌え』
転生たまんねえな! 推しキャラの顔で推し声優が自分の名前をちゃん付けで呼んでくれるんだよ? おいおい、犯罪だろこれ。
「あ、待った未来ちゃん。この道を曲がれば魔女ギルドがあるから、そこで情報を集めよう」
「ド……心ちゃん、なぜエルカ王国に詳しいのですか? 片手で数えるほどしか入国していませんよね?」
「えっ!? あー……まあ私の知識はすでにこの世界の全土に及ぶのだよ」
「さっ、流石です、ドロリッ」
危な〜、感情が昂ると普通に「ドロリス」って呼ぶぞこの子。
私の手で強引にクリスタの口を塞いだけど、唇がぷにぷにしててなんか官能的だった。もっとぷにぷにを味わいて〜と思いながらゆっくり手を離す。
「魔女ギルドは魔女が仕事を求めて集まる場だ。何か異変があったら気がつく魔女もいるはずだよ。エルカ王国には優秀な魔女が多いからね」
優秀な魔女のツボミもね。
というわけでクリスタの手を引いて、魔女ギルドへと殴り込んだ。ドロリス……そしてクリスタにとって、ここは敵の拠点だ。
私はともかく、クリスタは緊張の面持ちが隠せていない。
辺りを見渡せば見たことある魔女だらけ! 俗にいうモブとしてEden本編に登場していた魔女たちだ。
ふと、視界の端で緑色のマントが横切った。
「ウィルリーン!」
つい叫んでしまった自分に、1秒後に気がついた。
できるだけ目立ちたくないクリスタはあわあわと口から泡をぶくぶくさせている。こんなに表情豊かな子だったのか。
だが、叫んでしまっても仕方ないではないか。
生前唯一ハマったゲームの主人公アイリス。そのパーティメンバーにして、後に【深緑の槍士】と称される槍使い。
プレイアブルキャラクターでもあった『ウィルリーン・ランサラー』が、理外にも目の前に現れたのだから!
「えっと、僕の名を呼んだ君は……」
ウィルリーンは小恥ずかしそうに頬を掻き、私を見下ろした。
僕っ子、身長185cm、クマさんパンツ(本編未登場)。
くそ、癖に刺さるっ! が、今はそれどころじゃない。
「私は心と申します。ウィルリーンさん、昔あなたに助けられたのですが覚えていますでしょうか?」
「う、うーん? ごめんな、ちょっと記憶が」
ウィルリーンは王国魔女槍術隊に所属している。後にそこを除名されアイリスの仲間になるのだが、ドロリスが王国奇襲を中止した今はまだ、所属は変わっていないはずだ。
王国魔女槍術隊は主に治安維持を担当としている。つまり、あの痴女……じゃなかったリュカの情報を持っている可能性が高いのだ。
「では最近、この辺りで女絡みの妙な事件を耳にしてはいませんか?」
「女がらみの妙な事件……うん、僕らがまさに追っている事件だよ」
「詳しくお聞かせ願えませんか? あ、私も一応魔女です」
下級魔法、《水玉》を見せて魔女アピールをした。事件を一般人には明かさないだろうからね。
「ここ数日、夜になると裏路地から声がするらしいんだ。『美少女〜、美少女〜』とね」
間違いない。リュカだ。
でも一応まだ疑いの段階だ。確定させたいな。
「……それだけですか? 例えば『できるなら黒髪でクールな美少女』とか言っていませんでした?」
「すごいな君は! まさにその通りの情報が入っているよ」
はい確定。リュカです。何してんのあの子。
リュカはドロリスが好きだ。クリスタとは違い、リュカは本編でもその好意を見せつける。
……が、本編のドロリスは色恋などまったく興味がない。リュカのアピールを一蹴どころか無視するのだ。
そこで数年かけて編み出した技が、色仕掛け。大きな胸をほとんど曝け出す服を着て、スカートにはスリットが深く入っている。
元々性にフリーな彼女は、ドロリスに恋して相手されないことでそれに拍車がかかってしまったのだ。
そしてお待たせしました裏設定ガイドブック。
リュカの秘密①
ドロリスに相手されないからと、最近ではこっそり村娘を襲ったりしている。その妖艶さから結果的に同意の上でだ。
つまり我慢できなくなって王国で娘を襲っているわけだ。予想通りだけど、呆れたものだ。
「ありがとうウィルリーンさん。お礼はまた!」
「あ、ちょっと君!」
呼び止められたけど、ここは無視してクリスタと魔女ギルドを抜け出した。いま深く関わりすぎると厄介ごとに巻き込まれる気がしたのだ。
「お、思わぬ収穫だったね心ちゃん」
「うん。あとは夜になって裏路地を歩けば、リュカに会えるってわけだ!」
ウィルリーンに会えて嬉しくて、リュカにもすぐ会えそうだ。
なんだか今日は、いい日になる。そんな気がする!
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