第11話 ボツ設定も有効です
ティアラにしばらく冥血城を留守にすると伝えると、ちょっとだけ俯いて
『やっと研究に専念できる。さっさと行ってこい』
と言われた。素直じゃないんだからもう。
あとついでに変装の魔法で生前の私の姿を見たティアラは、
『またいつかその姿で研究させろ』
と言った。何か意味があるのかな。
まあいいや、とにかく!
「さあ行くよエルカ王国!」
冥血城を後にして、林を一瞬で抜け、ちょっとした丘の頂上で高らかに宣言する。
強キャラ感〜! こういうの憧れてたんだよね〜。
「ドロリス様、確認ですが今回は魔力結晶を狙っての進軍ではないのですね?」
夢に浸る私を現実に引き戻したのはクリスタだった。いつだって真面目な子だ。真面目に仕事するし、真面目に働くし、真面目にむっつり。
「う、うん。でも目的はあるよ」
「目的ですか?」
「目をつけておきたい魔女がいる……ふふ」
それはもちろんアイリス・ホワイト。Eden本編の主人公だ。
でもまだ彼女は無名の落ちこぼれ魔女のはずだ。ドロリスが王国を奇襲してから彼女の人生は大きく変わるんだけど、奇襲中止で私の知らないアイリスの物語が始まっているはず。
私はそれを確かめたい。
あと諜報活動を頑張ってくれたリュカを労いたい。決してあの大きな胸が見たいわけではない。そう、決してだ。
「ドロリス様が気にかける魔女……ですか」
あっ、ちょっと嫉妬してるな?
「大丈夫だって。別にスカウトに行くわけじゃないから。私の右腕はクリスタだけだよ」
「ど、ドロリス様!? わ、私が右腕などっ、に、荷が重いですよ!」
ふふ、わかりやすく顔に出てる。嬉しいんだよね。認めてもらいたかったんだよね。
本編のドロリスは、そんなことしない人だったから。
「さて、ここから王国まではかなり遠いか」
「歩けば1週間はかかります。フェニックスの背に乗れば1日半で到着しますが、いかがなさいますか?」
ここ(実質)ドロリス領は、4大国すべてを睨めるよう各国から等間隔に離れた場所にある。
歩けば1週間の距離。ゲームでは移動中の描写はカットされるけど、私にとって現実になったここではそんなことはできない。
はい、察しのいいあなたならもう分かりますね?
そう、魔法を使えばいいんです。
「《ドロリスゲート》でショートカットできるよ」
「ど、ドロリスゲート?」
初耳だろう。それもそのはず。
なぜならこれは裏設定ガイドブックに載った機密情報。
『実はドロリスは4大国すべてにマーキングをしており、瞬時ワープが可能となっている』
なぜこれが裏設定……というかボツ設定になったのかというと、監督曰く『ドロリスの性格からしてワープなんて与えたら一瞬にして世界が火の海になる』
からだそうだ。王国奇襲の前日に冥血城にいたということは、たぶん本編ではフェニックスの背に乗ったのだろう。
ボツ設定も、私が転生したことによって現実になっている。実際、ドロリスゲートが開くことは一人の時間で確認していた。
「新魔法を開発したんだよ。これで王国の近くへ瞬時移動できる。でも私がいないと開かないから、クリスタとリュカ、ティアラには使えないけど……」
「そ、それでも大革命ですよ。もし本当にここと王国間を瞬時移動できるなら、それこそ戦局はこちらが握れます」
あ、しまった。そっちに考えがいってしまうか。
クリスタはうーーんと作戦を練る顔をしている。余計なことを思い付かれる前に……
「さあ行くよクリスタ!」
「ちょ、ドロリス様っ!? ええっ!?」
クリスタの腕を引き、丘の頂上からダイブした。
「きゃあああぁぁ!?」
「可愛い悲鳴だね! 羨ましいよ」
私が修学旅行で連れて行かれたディスティニーランドでは、「うぎゃうごおおお」としか言えなかった。
なんて、過去のことを振り返る時間はない!
「《ドロリスゲート》」
声に出す瞬間、私たちが落ちる先に紫色のブラックホールのようなものが生まれた。
自由落下のままに、私は身を任せる。
そして次の瞬間、目を開けば……
「着いたよクリスタ。目を開けな」
「うう…………あ、あれはエルカ・ステラリア城! ということはここは!」
「エルカ王国。すべてが始まる街だ!」
ゲーム本編で何度も通過した正門が望める、草原の岩陰にワープした。
さて、早速アイリスに会いたい……ところだけど。
配下への労いを優先しよう。おっぱい……じゃなかった、リュカ・エンテグラスを探そう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます