第2話 ドロリス・シュヴァルツ
転生。
もはや擦られすぎた展開、説明も不要だろう。流行に疎い私だって知っているほどメジャーなジャンルだ。
私も死んで、目が覚めたら姿鏡が目の前にあった時、ああ転生したんだなと思った。死因の描写はダイパ重視で省略します。トラックに轢かれようが軽自動車だろうがヌーの大群だろうが大差ないでしょう。……いやヌーなら気になるな。
……じゃない、とにかく!
私、黒雛心(普通のJK)は転生してしまったのだ。他でもない、生前唯一ハマったと言えるゲームの【悪役】、ドロリス・シュヴァルツに。
落ち着け、まずは深呼吸して素数を数えるんだ。……素数って何だっけ。
私が女子校に入学してから、授業中みんなの透け下着を見るのに夢中になっていたのが仇となったか。
よし、素数には申し訳ないが落ち着けはした。素数不要説。
「しっかし……改めて美人だよなあ」
鏡に映るドロリスを見て、本音がこぼれた。
2秒後、その美人が今や自分であることに気づき、前言を撤回したくなった。気恥ずかしいのだ。
私は目に毒な鏡から離れてベッドに腰掛けた。
ドロリスのベッドは天蓋付きで、紫色のレースカーテンが外界とプライベート空間を隔てている。だから落ち着いてものを考えるにはもってこいだった。
(ドロリスが生きているということは、この時点ではエンディングを迎えているわけではない。ここ
(それにしても【悪役】ドロリスに転生とはついてない。どう足掻いてもバッドエンド。参ったなあ)
(いや待てよ。私はこの世界のほとんどを知っている。なぜならゲーム本編を3周プレイし、裏設定まで載ったガイドブックも買い、声優さんたちのトークショーにも参加して、あげくシナリオライターさんのライブ配信も聞いたほどにファンだからだ)
(下手にどこの世界の誰かもわからない人に転生するより、Edenのドロリスの方が動きやすいか。今が本編のどの時間軸かによっても対応は異なるけど、私は主人公アイリスたちと対立などしたくない)
「……そういえば」
私はベッドから降りて、ベッド下に手を突っ込んだ。隠し設定通りなら、ここにあるはずだ。
「おっ、あったあった」
手応えを感じたものを引き寄せると、それは一冊のノートであった。裏設定ガイドブックに記されていた、ドロリスの日記だ。本編には未登場。
ドロリスの日記を開いてみると、1ページ目には文字が綴られていたが2ページ目以降は白紙のままだった。
1ページ目には『いよいよ明日、エルカ王国を奇襲する。この世界を壊し、救済するための第一歩だ』と記されていた。
「ってことは、今日は王国奇襲前! つまりゲーム本編開始前ってことか!」
私はホッと胸を撫で下ろした。おっと、ぺちゃぱいの自分とは違い、ドロリスにはちゃーんと膨らみがある。この辺はR18ゾーンだから、さすがにガイドブックにも載ってない。
…………下の毛とかって何色なんだr
「ドロリス様っ! どうかなされましたか!?」
「うわああああああっ!?」
完全に不意を突かれた。
ドアを突き破る勢いで我が部屋に入ってきたのは、銀髪の騎士だった。
騎士は凛々しい顔に心配を浮かべて、私を見つめている。切れ長の瞳とキラキラ輝く彼女のまつ毛が、ドロリスとは違った方面にまた美しさを奏でている。
「クリスタ・クインテット……本物だぁ!」
この子はクリスタ・クインテット(CV星ヶ丘未来)。ドロリスに忠誠を誓った魔女剣士だ。かつては「
しかし彼女はドロリスの軍に入る。
そもそもなぜドロリスは悪役なのか。これは本編で語られていたことだが、ドロリスは現状この世界で最強の魔女だ。そしてドロリスには彼女にしか使えない固有魔法をいくつも有している。
そのうちの一つ、《未来視》の魔法で未来を見たドロリスは、今後4大国で激烈な戦争が起こることを知ったのだ。そしてその最前線に繰り出される魔女が苦しみながら戦死していく様を見て絶望する。
いっそ世界を一瞬で壊してみんなで楽に死のう、とドロリスは考えたのだ。それにクリスタも賛同し、少数精鋭の独立軍がここ冥血城に生まれる。
……せっかくこの世界に来たのに、アイリスと対立なんてしたくない。
それに私がドロリスになったことで、世界の未来が変わるかもしれない。戦争を止まるきっかけが、起きるかもしれない。
よし、決めた。
私はひとまず、この世界を観察する。私の持つ知識をすべて使って、この世界をドロリスとして生きていく。基本、スローライフ的に。
だから……
「明日はエルカ王国奇襲の日です。あまり無茶なことはなさらないよう……」
「ごめんクリスタ。王国奇襲の話はいったんナシで」
「……へっ?」
クリスタは裏設定ガイドブックにも載ってなかった呆け顔になった。
百合ゲーの悪役魔女に転生した私もハーレム作っていいですか? 三色ライト @kuu3forget
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