6 暁の剣士

6-1 別パーティに合流

 友人らと別れて帰途に就いた司は、美咲からメッセージが届いていたことに気付いた。

 電話していい? と書かれた短いメッセージを見て、おそらく蒼の夜について直接話したいのだろうなと推測した。


 蒼の夜自体は公表されたし、暁に協力していることを絶対に黙っていないといけないわけでもなくなったが、やはり直接関わっていることを知られない方がいいというのが暁のスタンスだ。

 なので蒼の夜に関することは、文字が残ってしまうメッセージより直接話した方がいい。通話とてどこかで傍受される可能性はあるが、そこまでされたらもう司達高校生には防ぎようがない。


『今帰ってるところ。こっちから電話するよ』


 返事をすると、了解のスタンプが返って来た。

 帰宅し、部屋に引き揚げてすぐ、美咲に電話をかける。


『今日のあれ、氷室くんのとこはどんな反応だった?』


 やはり蒼の夜の事だった。


『クラスに巻き込まれた人がいるから、うちのクラスはすごく身近に感じてるんじゃないかな』

『あ、そうか。氷室くんの大切なお友達……』


 美咲は「ごめんね」と小さい声で言った。


『別に謝ることじゃないよ。あいつ、今頃天国で「俺の話題きたー」とか喜んでるよ。そういうヤツだ』


 言って、本当にそういうヤツだよなと司は笑みを漏らした。

 美咲も、そういう人なんだ、と笑った。


『放送見てて思ったのが、里村さん、ずいぶんズバッと言ったよなって』

『魔物に殺された人の命は助けられません、でしょ? あれすごかったよね。うちのクラス、めちゃどよめいた』

『隣のクラスから怒鳴り声聞こえたよ』

『あぁ……。だってみんな蒼の夜に巻き込まれても暁が助けてくれるって期待してたと思うんだよ』


 それが「運が悪ければ死にます」と宣言されたも同然なのだから無理もない。

 それでも、その続きの言葉にみんなそれなりに納得というか、仕方ないって思ってたふうなのは、里村の言葉に説得力があったからだろう。


『里村さんって理詰めの人っぽい?』

『うん、そんな感じ。あんまり感情面については触れないよ』


 律とはずいぶん違うなと思った。

 自分のパーティリーダーが律でよかった、とも。

 いくら理詰めの人としてもそこまでのことは言わないと思うが、もし栄一を亡くした直後に「悲しむより前を向いたほうが効率的」とか言われたら司はきっとキレるだろう。暁への協力をやめたいと思ったかもしれない。


『あ、ちょっと待って。――蒼の夜だ』


 美咲の声に緊張が走る。


『そこで?』

『ううん。里村さんからメッセージ。行ってくる』

『手伝おうか?』


 反射的に、そう言っていた。


『ほんと? 聞いてみる。一旦切るね』

『気をつけて』


 慌ただしく通話が終了した。

 いつでも呼び出しに応じられるよう、玄関に移動する。


「出かけるの?」

「うん、コンビニ……、じゃなくて、蒼の夜かもしれない」


 もう両親には黙っている必要はなくなったのだ。


「やたらコンビニとかお友達と会うとか多くなったって思ってたら、蒼の夜だったんだねぇ」


 母親が肩をすくめている。


「まだ、反対?」

「そりゃいつまでたっても賛成はできないよ。けど、もう反対もしないよ。あんたが決めたことだから。どんな形でも親から巣立っていこうとする子を止めちゃいけない、ってね」


 どうだできた母だろうと冗談めかして笑う母に司も笑って「ありがとう」と言った。


 スマートフォンが鳴る。


『氷室くんだね。来てくれるならお願いするよ。ちょっと厄介な場所なんだ』


 今日モニター越しで聞いた声だった。

 もう転移してもらっても大丈夫だと応えると、転移の房が光った。

 体を押しつぶされたり引き伸ばされたりする独特の感触の後、景色が一変する。


 建物の中だ。デパートか。

 声を掛けられるまでもなく美咲達の姿はすぐに見つかった。


 催し物会場と思われる場所で三人が魔物と対している。

 いや、対しているのは里村で、美咲ともう一人は蒼の夜に同化した人達を担いで安全な場所に運んでいる。

 まずは戦える場所を確保ということか、と司は状況を把握した。


 あれを手伝えばいいのだな、と司も美咲達と一緒に買い物客や店員を離れた場所へ連れて行く。


 作業の間にちらりと里村達を見る。


 魔物は巨大な花で、ゲームなどでよく見る、花の部分が裂けて巨大な口となっているタイプだ。ギザギザと尖った歯をむき出しにして威嚇している。

 花部分に見合わない細い茎に、たくさんのツタを生やしている。うねうねと動かしているが、どうも動きが鈍いように見える。


 花の前にいる里村の胸の高さで、お札が八枚、里村を囲みぐるぐると回っている。


「拘束」


 里村が短く鋭い言葉を発すると、お札の三枚が花に飛んでいき、貼り付く。

 なるほど、そうやって花の動きを抑えているのだなと納得だ。


 少しすると飛んで行ったお札が補充されている。


「急いでくれ。魔力の補充が間に合わなくなる」


 里村が声を張った。

 あのお札は魔力の表れのようだ。

 以前共闘した時は実質里村のパーティと律のパーティに別れて対処していた。

 これから里村のパーティと協力して敵を討つ。


 司は緊張した面持ちで、里村の指示を待ちながら近くの人を避難させた。

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