5-3 行方不明の報せ

 期末テストが始まった。

 当然だが栄一は学校に来ない。

 最初は質の悪い風邪なんだなと言っていた同級生たちもさすがに心配し始める。


「風邪とかインフルとか、なんで休んでるのかも気になるけど、なーんにも連絡ないってのがなぁ」

「やばいやばい、まずいまずい、って騒ぎそうだよな」

「氷室んとこにも、何もなし?」

「うん、何も」


 来るわけがない、と思いつつ、幽霊でも何でもいいから返事とか来たらいいのにな、とも思う。


 四日間のテストが終わり、次の日からはテスト返却機関に入る。

 そこで、衝撃の事実がクラスにもたらされた。


「ずっと休んでる南だが」


 朝のホームルームで、担任教師が眉根を寄せて言う。


 理由、話すんだ? と司がドキリとした瞬間、教師が続けた。


「行方不明、だそうだ」


 教室の空気が揺れた。

 ざわざわと立ち上がる驚きの声は、教師への質問へと変わる。


「行方不明って、どういうことですか?」

「突然、いなくなった、ってことだ。連絡もつかない」

「いつから?」

「テスト前の日曜日、だったかな」

「俺らと勉強会した日だ」


 佐々木の声に、周りが反応する。

 どういうことだ。いつまで連絡が取れていたんだ。最後に話したのは誰だ。

 そんな話になっていって、司はぐっと唇をかむ。


「おーい、静かにー」


 担任教師が声を張った。

 不承不承ながらクラスメイト達は従った。


「警察が探してくれているらしいから、何か判ったことがあったら親にでも学校にでもいいから言ってくれ。それと」


 こちらの方が大事だといわんばかりにクラスを見回してぐっと力を込めて、教師が言う。


「まだ世間には行方不明だということは言わないでほしいと南のご両親からのお願いだから、騒がないように。SNSなんかに書くなよ」


 担任は念押しするようにまたクラスを見回して、ホームルーム終了を告げて教室を出て行った。


「おまえ、もしかして何か知ってる?」


 教師が行ってしまってすぐ、佐々木、田中、山崎が司の机に群がった。

 田中の声に責めるような響きはないが、疑っているのは判る。


「うん。黙っててごめん。言うなって言われてて」


 もしも行方不明の話が表に出てきた時にはこう答えるといい、と律に用意されていた内容を思い出しながら、司はうなずいた。


 友人らは先程の教師の言葉を引き合いに出してなるほどなと納得してくれた。


「いつまで一緒だった?」

「あいつの最寄り駅まで。電車を降りていって、それっきり」

「どんな様子だった?」

「いつも通りだった」


 また明日なー、と言われていたことは伏せておく。


「その日の夜に南のお母さんから連絡があって、でもその時はまだすぐに帰ってくるかも、だったから、他のお友達には言わないで、って言われてて」


 帰ってこないから家族が警察に連絡したんだろうな、と締めくくった。


「それじゃ今、捜査してるってことかな」

「早く見つかるといいな」

「帰ってきたら、何があったか聞かないとな」

「超ヤバかったぞーとかって喜んで話しそうだよな、あいつ」


 いつの間にか司達の話に聞き入っていたクラスメイト達も笑った。


 本当に帰ってきたら、そうだよな。

 栄一の笑顔を思い出しながら、司も笑みを浮かべた。




 もっと点数は下がっているだろうと思われたテストは、かろうじて平均点付近をキープした。

 栄一がいなくなってから勉強は手つかずだったが、それまでに友人らとそれなりに勉強していたことが幸いだった。


「もうちょっと取れると思ってたのにねぇ」


 点数報告に母親がうなっている。


「それよりさ」

「それよりってなによ。ごまかそうってたってそうはいかないよ?」

「南が、行方不明になってて」

「……は? え?」


 冗談っぽく笑っていた母の顔が固まった。


「いつから?」

「日曜日」

「あんた、それ知ってて……」

「うん。そのせいばっかりにしたくないけど」

「そう、……あんた、よくやったよ」

「てのひら返った」


 司がちょっと笑うと、母親の笑いに涙がまじった。


「司も、気をつけてね」


 心底心配されていると判る。

 司は、うん、とうなずいて部屋に引き揚げた。


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