1-9 気づかされたこと
いつものように、昼休みは屋上に向かう司だったが、外に繋がる扉を押し開けた時に思わずつぶやいた。
「あっつ!」
まだ六月だというのにもうこの時間で外は三十度を超える勢いだ。
校舎の壁が作る日陰も、四月に比べてかなり小さくなってきている。
「さすがにもう外で弁当食べる気温じゃないなー」
後ろからついてきた
「教室戻るかー?」
「そうだな」
二人はすごすごと教室に戻っていった。
「あ、戻って来たぞ」
「さすがにもう外で食うのは無理だろう」
クラスメイトが司達を見て笑っている。
「日陰に期待したんだけどなー。やっぱ屋上飯は春と秋だけだな」
栄一が彼らに応えている。
ありがたい、と司は思った。
クラスの連中と話すのは特に嫌いではない。が、どうしても彼らの「ノリ」についていけていない自分を感じてしまって、場にそぐわないという違和感を覚えてしまう。栄一だけだとそんなことはないのに、どうしてだか司にも判らない。
「こっち交じるか?」
「あー、いや、なんかもうそっち結構食っちゃってるし、明日から頼むわ」
「おー」
グループにまじって弁当を食べることを勧められて司は緊張したが、栄一がうまく断ってくれた。
明日からなら心の準備もできるというものだ。
司の席に、空いている隣の机をかりてくっつけて、栄一と弁当を広げる。
「去年も夏は教室だったよなー」
早速卵焼きを口に運びながら栄一がつぶやくように言う。
「冬は、そんなに寒くなかったから屋上だったな」
さて今年は屋上で食べられるような気温だろうか。
司はふっと笑った。
「ん? なんだ?」
「いや、おまえ変わってるよな。俺に付き合って屋上で食べるなんて」
「それ、自分で自分をヘンって言っちゃってるからな?」
言われて、その通りじゃないかなと司は苦い顔をした。
「なんか、人数が多いと何話していいのか判らなくなってさ。話聞いてるだけになって、じゃあ俺がここにいるのってなんで? って思うんだよ」
変だろ? というと栄一はきょとんとした。
「別に話聞いてるだけでいいじゃん」
あっさりと肯定されて司は「え」と短く声を漏らした。
「別に無理にしゃべろうとしなくってもいいじゃないか。話題がないからそこにいる意味がないとか、ないと思うけどなー」
自分が勝手に、クラスの連中との間に壁を作っていただけなのかと司はまさに目からうろこだった。
「南って、すごいな」
「そうかー? もっと褒めていいぞー」
わざとらしくふんぞり返った栄一に司は笑った。
そうか、いていいんだ。
ふっと心が軽くなるのを感じた。
次の訓練の日、司が刀を素振りしていると
「何か、いい事がありましたか?」
え? と驚いて司は手を止める。
「今日、いい表情です」
「そうなんですか?」
「はい」
遥がにこりと笑う。
今までにない優し気な笑顔でどきりとした。
遥はあまり表情が動かない人だと思っていた。笑顔を浮かべるにしてもどこか作ったような笑みだと思っていた。
ちょっと自分と似ているなと、思っていた。
打ち解けた相手にしか感情を見せない、という面で。
そんな彼女が、自分にも柔らかい笑顔を見せてくれた。
嬉しい。
しかしここで「師匠が笑ってくれたから」などと言える度胸は持ち合わせていなかった。
「まぁ、ちょっと。学校で」
事実、栄一が「無理に話そうとしなくてもいい」と言ってくれてから、栄一の友人らと一緒にいても心苦しさを感じなくなったのは確かだ。
「よかったですね」
「……はい」
微笑を向けられ、さらに鼓動が速くなる。
『今まで見せなかった一面を見せてくるって萌え』って言われてるのが判った気がする。
司は心の中で思わず叫んでいた。
「さぁ、素振りを続けてください」
「はいっ」
とりあえず訓練に集中しなければと司は刀の柄を強く握りなおした。
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