1-3 戦える人に近い位置
週末、
蒼の夜に関わるのか否か。自分はどうするべきなのか、いや、どうしたいのか。
何度か考えたが、決めあぐねていた。
好奇心もあるが、恐怖もある。
自分が本当に異能を駆使して戦えるのか疑問でもある。
そういえば、と思い当たる。律に司の名前や連絡先は教えていない。
このまましらばっくれて答えを返さないという選択肢もあるんじゃないか、と、頭にちらついた。
だがさすがに、殺されそうになっているところを助けてもらったのにそれはあまりにも不誠実じゃないかと思う。
そんな感じの思考がぐるぐると頭を回るうちに、月曜日を迎えた。
教室は相変わらず騒がしい。
賑やかなのが嫌いというわけではないが、人との関わりを煩わしいと思うことはある。
今がちょうどその時だった。
昼休みになって、司はさっさと教室を出る。
購買部でパンを買って、屋上へ向かう。
転落防止用のフェンスがしっかりと張り巡らされているからか、司の高校では屋上に出ることを禁止されていない。
だが、周りを住宅に囲まれた校舎から見える景色は、特に魅力ないものだからか、屋上を訪れる生徒はそう多くない。
司は壁を背に座って空を眺める。
金網ごしの空は、とても澄んでいる。
ふと、怪物が現れた時の蒼く暗い夜の空がフラッシュバックする。
蒼い月明かりに照らされたかのような景色だった。
だから蒼の夜というのだろう。
司は頭を振って蒼の夜を追い払った。
「よー、なんか難しそうな顔してんなー」
のんびりとした声に司は顔をそちらに向ける。
クラスメイトで友人とも呼べる南
「なんか悩みか?」
問われて、司は昨日の律の言葉を思い出す。
『関わる関わらないを問わずこの話は誰にも言わないで。そんな現象が現実に起こるって広まったらパニックになってしまうから』
律に言われたことは理解できる。
例えば過去に彗星が地球のそばを通過するというニュースが流れた時、地球の空気がなくなってしまうというデマが広がった。どうせ死ぬならと財産を使い果たす人、犯罪に走る人、自殺をしてしまう人、様々な悲しい行動をとった人がたくさんいたそうだ。
「なにもないよ」
「そうかぁ? パンも食べてないみたいだし、具合悪いんじゃないのか?」
「食欲あんまりなくてさ。多分冷えたんだろう」
「体冷えて食欲なくしてるのに、こんなとこで座ってちゃだめだと思うぞぉ。せめて日向にでないと」
確かに、と司は微笑した。
これ以上食欲不振の原因に触れられると、蒼の夜のことを話してしまいたくなりそうだ。司は話題を変えた。
「昨日なんかテレビ見たか?」
「録画してた深夜アニメ見たぞ」
「あー、そういやおとといの夜中だっけな」
二人ともそこそこアニメは見るしゲームもする。おれらライトなオタクだよなーと栄一は自分達を評している。
金曜日のあれも、作り事ならどれほどよかったか。
考えて、司は頭を軽く振った。
「どした?」
「いや。……話変わるけどさ、南はもしも異世界転生とか、異世界の生き物がこっちの世界に来るとか、そんな状況になったらどうだ?」
視聴したアニメの話とも通じるところもあるしこれぐらいならいいだろう、と司は栄一に尋ねてみた。
「マジ、アニメだなぁ」
まったく現実味のない話としてとらえて笑っている栄一がうらやましいと司は思う。
「面白そうだけど、やっぱ無理っしょー。今の生活があるからそういうのって考えられるんだよな。実際に異世界行っちゃったり、異世界の生き物がこっちにきて暴れたりしてみ? かなりヤバイだろ。フィクションは、フィクションだから楽しめるんだよ」
まったくその通りだと司はうなずいた。
「異世界の化け物がもしもこっちきて暴れるなら、おれはめっちゃ逃げるぞ。そういうのは戦える人におまかせー」
戦える人、か。
化け物を切り伏せた
自分がそこに加われるのか?
でももしあの現象が今ここで起こったら栄一は蒼の夜に同化してしまうかもしれない。そうなれば彼を担いででも引きずってでも逃げられるのは自分なのだ。
戦える人に近い位置にいるのは確かだ。
選ばれた人間だなどとおこがましいことは思わない。
戦って勝つ、というのが無理ならせめて自分や友人、家族を生存できるようにする、ぐらいの何かを得られれば。
自分にそれができるのか、試してみてもいいのかもしれない。
司は律たちに協力すると決めた。
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