第3話 抗う者たち

しばらく休憩した後、カレンがついてきてほしい場所があると言うのでソラはそれについていくことにした。

その頃には空はもう夕焼け空だった、崩壊した街を歩くこと十数分後、カレンに案内されたのはこの街にはよくある半壊したまま放置された一軒家だった。

元は二階建てであったろう建物は、二階部分が何かに抉り取られたように失くなっていた。

「さあ入って私たちの活動拠点よ。」

カレンがそう言って比較的無事である一階部分にある入り口の扉の鍵を開ける。

「えっとその…ここの家ですか?一階部分は比較的ましですけど、それでももうほぼ居住区としては機能しないような…」

ソラが目の前の建物を指差して遠慮がちにカレンへと質問する。

「ああっ最初はそう思うわよね、でも大丈夫よ中に入ればわかるから。」

カレンはそう返すと、扉をくぐって中に入ってしまう、それに慌ててソラも続く。

中に入ると以外と中は普通だった。リビングには机や椅子といった家具が揃っていたし、寝室も覗いてみたが、ちゃんとベッドも置いてあった。

「へえ、意外とちゃんとしてるんですね。」

「まあ見た目だけね。」

リビングをキョロキョロと見回していたソラがそんなことをつぶやくと、カレンから予想外の答えが返ってくる。

「見た目だけ?」

カレンの答えにソラが首をかしげているとカレンがリビングに引いてあるカーペットをめくりながら答え合わせをしてくれた。

「そう、私たちの本拠点はこの下よ。」

カレンのめくった場所には床下へと続いているであろう扉があった。

そこから二人は梯子を使って、少し下へと降りる。

「ほらっメラ起きなさい!戦闘の後からずっと寝てたでしょ?」

「ふえっああ着いたんだな。悪いカレン、いつの間にかオイラ寝ちまってた。」

カレンが柄をトントンと指で叩き声をかけると、マヌケな声と共にメラが返事をする。

「いいわよ別に、今日1日でずいぶん悪魔と戦ったから。それにアレと戦うのにだいぶ力を使ったみたいだし。なにより今はソラとユキもいるから大丈夫よ。」

その返事にカレンはメラをいたわるように優しい声音で声をかけ、それにすかさずソラとユキも続いた。

「そうですよ、メラさん私たちもいるので安心してください。」

「そうね。安心してほしいわメラ。」

そんな三人の優しさにメラは明るく返す。

「そうか、そう言ってくれると助かる。ソラとユキもありがとな。」

それを聞いたカレンは、数歩先にある頑丈そうな鉄の扉にポケットから取り出した。

先ほどとはデザインの異なる鍵を取り出しその扉の鍵穴へ差し込むと回す、ガチャンという重い音が響くのを確認するとカレンはソラのほうへと振り返って言う。

「さて改めて紹介するわ、ここが私たちの拠点よ!」

その扉の先は、地上の一軒家にあるような壁や床ではなかった。

そうこの扉の先は、床と壁、それから机や椅子といった家具までもがほぼ全て植物でできていたのだ。それも木材が使われているとかそういうことではなく、木の幹や見たこともないような太さの蔓で構成されていた。

「わあ…すごいですね!これってどういう原理なんですか?」

「良い反応ね、この拠点は…」

ソラは目をキラキラと輝かせてその神秘的な光景に驚きの声を上げ、興奮したようにカレンに聞く。

それを見たカレンは気分が良くなったのか得意気に説明しようとしてくれるがそれは言葉の途中で男の声に遮られる。

「この拠点は精霊が作ってくれたんだ。」

「ちょっとクレイス、それを今!私が!ソラに説明してたところなんだけど!」

自分がソラに説明したかったのに取られてしまったカレンは悔しそうにクレイスの胸ぐらをつかみ、前後にグワングワンと揺らす。

「いやいや、この拠点は俺と契約した精霊が作ってるんだからいいだろ?それに人の忠告を無視して一人で突っ走るやつの言うことなんか聞きたくないね。」

クレイスに食って掛かっていたカレンはそれまでの勢いをなくし罰が悪そうに目をそらしながら掴んでいた手をはなすと謝罪する。

「うっそれは…いやでもあの時はソラがいたし…うんそうね、ごめん。」

カレンの様子にしょうがないなとため息をついてクレイスは忠告を無視して突っ走ったことを責めるのを止めるとソラへと自己紹介をする。

「はあ…まったく次からは気をつけてくれ…って言っても突っ走るんだろうけど。まあこの話はこのくらいにしといて、ソラさん?だったか?ようこそ俺たちの拠点へ。俺はクレイス、そこのカレンの後方支援をやってる。よろしく。」

ソラは自己紹介をしてきたクレイスに対してペコッとお辞儀をすると自らも自己紹介をする。

「はいクレイスさんですね、よろしくお願いします!あとソラでいいですよ。」

「わかった。なら俺のことも気軽にクレイスって呼んでくれ。」

「わかりましたクレイス。」

そんなやり取りをしている二人に少し落ち込んでいたはずのカレンが復活してくる。

「ちょっとクレイス、あなたずるいわよ!ねえソラ?私もカレンでいいわよ!」

「ああっ二人ともずりい、オイラもメラって呼んでほしい!」

カレンがソラの目の前にズイッと出てくると早口でまくしたて、さらにそれにメラものっかってくる。

「えっとその…二人はごめんなさい!さん付けさせてください!」

二人の様子に一瞬ギョッとした表情をしたあと、ブンッとおもいっきり頭を下げるとカレンとメラのお願いを却下する。

「ちょっとソラ!こんなメガネを呼び捨てで、私はなんでさん付けなのよ!」

「そうだぞ、なんでオイラも!」

カレンはソラの言葉にショックを受けながら、その悲しい気持ちを羨ましい扱いを受けているクレイスにぶつける。おまけでメラも抗議の声を上げていた。

ソラはカレンに申し訳ない気持ちを覚えながらも恥ずかしそうに顔の前で自身の人差し指をツンツンしつつ、その理由を話し始める。

「そのえっと…なんと言いますか、二人が私を助けてくれたときがかっこよくて、自分で言うのもあれですが自分もそうなりたいと思ってしまったというか、その憧れ…を抱いてしまったのでとても呼び捨てにはできないというか…」

「ふーんなるほどね…そういうことならさん付けでも…ああ待って面と向かって憧れてると言われるとなんだかくすぐったい…」

「そうか…ソラはオイラのことをそんな風に…悪くないな!」

カレンはソラの話した理由に分かりやすく喜んでいた、カレン自身には必死に隠そうとしていたが誰から見てもそのニヤケ顔を隠せていなかった。メラも声だけだがカレンと一緒でたぶんニヤケていた。

「カレン顔赤いぞ。」

クレイスがからかうが、当のカレンにはダメージが入らなかった。

「だってこれ…目の前で言われるとけっこう照れるんだから仕方ないじゃない…でもどうしよう嬉しい…」

「あの…カレンさん、そういう反応されるとこっちも照れちゃいますよ…」

顔を押さえてテレテレしているカレンとそれを見てソラも顔を押さえて恥ずかしがり、しかも指の隙間からお互いのことをチラチラと見ながら二人で向かいあっている

「おいメラ、なんだろう俺はちょっとからかうだけのはずだったのに、なぜかすごく負けた気分なんだが?」

「いやオイラに聞くなよ。」

そんな二人の様子に敗北感を覚えたクレイスはメラに意見を求めるが、メラからの返事はちょっと冷たかった。

そこでクレイスの通信端末に着信が入る。

クレイスはそれを操作すると耳に当て、相手の声を聞くと耳から離し全員に聞こえるようにマイクへと切り換える。

「んっみんな聞こえてる?」

「聞こえてるわよ、メグ」

その端末から抑揚のない女の子の声が聞こえてきた、それにカレンが言葉を返す。

「それは良かった。なら手短に話すけどゴーレムが現れた。なのでみんなにはそれの討伐を手伝ってもらいたい。」

メグと呼ばれた声の主はこれまた抑揚のない声で要件を口にする。

「場所はどこ?」

「んっカレンは話が早くて助かる。なら居場所を教えるから戦う準備ができたら来てほしい。」

それだけ言い残してメグは通話を切ってしまった。

直後、ピコンッと着信音が鳴り一枚の画像が送られてくる。

それをクレイスはタップして開き全員に見せ、それをソラとカレンが覗き込む。

「うわ…ここって」

「そうだなあそこだな…」

「うげーオイラまたあそこに行くのか…」

写し出された地図を見た三人の反応はカレンが嫌そうな顔をして、メラは嫌そうな声上げ、クレイスが苦笑いを浮かべるといったものだった。

「あの~皆さんどうしてそんなに嫌そうな顔を?」

「この場所がどうかしたのかしら?」

そんな三人の反応に二人だけ置いていかれているソラとユキが不思議そうに疑問を口に出す。

「ああそれはね…まあ行けばわかるわ。ソラついてきて。」

二人の疑問にカレンが遠い目をしながらそう言うとそれから部屋の隅へと歩いていく。

ソラとユキはカレンの答えは気になったがまずはメグと呼ばれた少女のもとへ行くほうが優先だと考え直し、素直にカレンの後をついていくことにした。

ソラが後を追っていくとさっそくカレンはなにやらボール状のものを腰のベルトに取り付けたりと自身の準備をテキパキとこなしていく。

ものすごい速さで自身の支度を済ませるとカレンは自分の後ろで待たせているソラへと振り返る。

「はいっこれソラの分!」

そう言ってソラに自分が着ているのと同じ服とベルトを渡してくる。

「あの、これって…」

ソラはそれを受け取り、その衣服とカレンの着ている衣服を見比べながらカレンへと聞く。

「それは私が着ているのと一緒よ。ここの戦闘用の装備って言えばわかりやすいかしら?」

「説明を付け加えるとその装備は悪魔の使う力に対しての耐性を上げてくれるんだよ。」

カレンの説明をクレイスが補足してくれる。

「なるほど。だから戦闘用の装備というわけですか。」

「ええ、そういうことよ。」

ソラがクレイスの説明を聞き、フムフムと頷いているのを見てカレンも満足そうに微笑む。

「カレン、それにソラ、二人には俺からも渡すものがある。受け取ってくれ。」

クレイスはポケットからビー玉くらいの大きさをした植物の種らしきものを取り出しカレンとソラに手渡す。

「ねえクレイスこれなに?」

「いやそんな微妙な顔するなよ…この種以外とすごいんだけどな。」

「えっと…どんなふうにですか?」

「良く聞いてくれたな、これは簡単に言うと俺が契約している精霊の分身みたいなものを呼び出せるんだよ、まあ効力は一時間くらいでその時間が過ぎたら勝手に元の精霊に帰っていくけどな。」

「ちょっとクレイスすごいじゃない!それってつまりあなたの精霊も戦力として数えられるってことよね!?」

「なんだよさっきまでえっこれなに…みたいな反応だったくせに!まあでもそういうことだ。正確には俺がここから精霊本体の力を使った場合にその力を分身に送ることができるだけど。」

「精霊ってそんなこともできるんですね、えへへっすごいですね…」

ソラはとっても嬉しそうな笑顔を浮かべながら、クレイスにキラキラとした尊敬の眼差し向けるが、クレイスはさっきのカレンの反応と違い過ぎたので若干混乱しつつも突っ込みをいれる。

「ええっ何でこっちはこっちでこんなに眩しい笑顔なんだよ!?」

「ふふっごめんなさいねクレイスさん、この子精霊に興味津々なのよ。」

そんなクレイスの驚いた声にユキが説明を付け加えつつ答え、それにメラが興奮した様子でのっかってくる。

「そうだぞクレイス、ソラはオイラのことだってすっごいキラキラした目で見てくれたんだ!嬉しかったなぁ…」

メラはそのときのことが相当嬉しかったのかいつもより声が大きかった。

「はいはい、ワチャワチャするのはその辺にしてソラは着替えて、クレイスはソラの邪魔しないの。」

ワチャワチャと楽しそうにしている面々に対してカレンは注目を集めるようにパンパンッと手を叩きながらそれぞれの行動を促す。

「そうでした、カレンさんありがとうございます。えっと着替えはどこで?」

「こっちよ、更衣室まで案内するわ。着替えたらすぐ出るから持っていきたいものがあれば持ったまま来て。」

「はいっ!」

ソラは更衣室まで案内してくれるというカレンの後を追いかけて部屋の外の廊下へと出る。それからカレンに追い付いたソラは手の中にある本を見つめ苦笑を浮かべながらちょっと悲しそうに小さな声でこぼす。

「といっても私の持ち物なんてユキがいるこの本と衣服くらいなものなんですけどね。」

カレンはそのソラの少し悲しそうな様子が気になったが、聞かれたくないこともあるだろうと気持ちを切り替えると聞かないかわりにソラに抗う力が増えたことを改めて伝えてみる。

「そうよね…ソラって私と出会ったとき悪魔に殺されかけてたものね。でもこれからはあなたも今日の自分と同じような悪魔に脅かされている人たちを助けるのよ。ユキが贈ってくれたその素敵な力でね。」

カレンの言葉を聞いたソラは一瞬ビクッと肩を跳ねさせると、モジモジとしながら自信なさげに聞いてくる。

「そうですね…でも私にできるでしょうか?」

「ふふっなに?心配なの?でも大丈夫よ。だってソラはあのすっごく強い悪魔を前に一歩も退かなかったし、悪魔に囲まれたときも私のサポートをしてくれたじゃない!自信を持ちなさい!あの状況で二人とも生還できたのはあなたの力があったからよ。」

歴戦の契約者でも生還できないだろう修羅場を乗り越えて、しかも自分自身の人から見れば大それた目的に不敵に笑って返したソラが未だに自信なさげな様子がなんだか可笑しくて少し笑ってしまう、それからカレンは笑顔のままソラに振り向くと体ごとくるっと振り返ると、自信のないソラがしっかりと自信を持てるように優しくそれでいて力強く声をかける。

「ふふっカレンさん!ありがとうございます!なんだかちょっと自分に自信がついた気がします。」

カレンの言葉に勇気付けられたのか、ソラの表情からは不安が消えていた。それにカレンは満足そうにこたえ、ちょうど到着した更衣室の扉を押し開ける。

「そう?なら良かったわ。着いたわね、更衣室はここよ。」

「はいっ!着替えて来ますね!」

そう言って扉の向こうに消えていくソラと扉の横の壁へ背中を預け腕を組み、静かにソラを絶対に守ろうと心に決めるカレン。

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