35.「結婚式(後)」

 吹っ飛んだ彼女の姿に、参加者たちが一瞬言葉を失った後――


「暴力は駄目だガ! 筋肉は誰かを傷付ける為じゃなくて、守るためにあるもんだガ!」

「ガハハハハハハハハ! 流石にそれは笑えないぞ眼鏡屋! ガハハハハハハハハ!」

「ラララ~♪ 吹っ飛ぶ姿も綺麗~♪」

「家庭内暴力スラ!」

「今すぐ逮捕するイム!」

「結婚式で既にこれって、終わってるゴン!」

「女の敵ドラ!」

「DVは駄目だよ! でも、僕がいくら言おうが、『お前はいきなり幼気なスライム兄妹を殺そうとしただろ』とか言って、聞く耳持って貰えないんだろうな、うん、分かってるさ。ぐすん」

「ど~れ。活火山の火口にでも空間転移させてやろうかねぇ?」

「余程ダークエルフの魔法の威力をその身を以って味わいたいようだな、眼鏡屋」


「最後の方殺意高いなおい」


 俺は、「まぁ待て」と、今にも飛び掛かって来そうな彼ら彼女たちを、手で制する。


 それでも「ギャーギャー」言っていた参加者たちだったが――


「な……何で分かったんだ、てめぇ!?」

「「「「「!?」」」」」


 ――地面に倒れる少女の姿がブレて、瞬時にヴァラギスへと変化したのを見て、皆呆然とする。


 腫れあがった頬を擦りながら、フラフラと立ち上がったヴァラギスは、声を荒らげた。


「俺様は、てめぇと同じ〝女神から貰った特殊スキル〟持ちだ。てめぇが〝ステータス眼鏡〟の力を使ったなら、俺様はその効果を弾くだけじゃなくて、同時に感知も出来る。だが、てめぇは使わなかった。にも拘わらず、てめぇは俺様がレンじゃないと見破った! 何故だ!? 俺様の能力は完璧だ! 身長・体重は勿論、黒子の数と位置、更には睫毛の本数まで全てトレースして、寸分違わず、対象と同じ姿になれる。見分ける方法なんて無い! なのに、何故だ!?」


 その問いに、俺は即答する。


「偽者なんかより、レンの方が百倍可愛い」

「!」


 「答えになってねぇよ!」と、奴が噛み付くが――


「ごめんなさい!」


 ――そこに、本物のレンが飛んで来た。

 変身していた時のヴァラギスと同じく、純白のドレスを身に纏って。


 どうやら、森の中で、俺たちの様子を見守っていたようだ。


「あたしが悪いの。ヴァラギスさんから、『アイツが本当にてめぇの事を愛してるなら、俺様の変身魔法くらい、見破れるはずだ。今まで散々不安な目に遭わされてきたんだろ? だったら、もう一回試すような真似しても、バチは当たらねぇよ』って言われて、『そうかな……じゃあ、お願いします』って、頼んじゃったの。本当にごめんなさい……!」


 申し訳なさそうに、頭を下げるレン。

 

 まぁ、そんな事だろうと思っていた。


 他の者たちの様子からすると、前回と違い、今回はヴァラギスの独断のようだ。

 

 さぁて、どう料理してやろうか……

 と、思っていると――


「ヴァアアアアアアアアラアアアアアアアアギイイイイイイイイスウウウウウウウウ!!!」

「!!!」


 ――ジーンが、鬼の如き形相で飛翔して来た。


「『どうしても外せない用事がある。参加する時は、絶対に一緒に参加したい』って言うから、今日の結婚式は不参加としていたのに! それが、こんな事を企んでいただなんて! しかも、わたくしに『眼鏡がすごく似合ってる』『眼鏡を掛けてる時はいつも以上に可愛い』とか言って眼鏡を外さないように仕向けて心を読まれないようにして! どこまで姑息ですの!」


 一歩、また一歩と近付いて来たジーンは、普段より一オクターブ低い声で――


「覚悟は良いですわね?」

「ひいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 ――ヴァラギスに――


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ――身の毛もよだつ折檻をした。


 そして、俺たちはというと――


「ラルド、本当にごめんなさい!」

「いや、お前は悪くない。悪いのは全部アイツだ」

「ううん、結局決断したのは、あたしだから」


 頑として自分自身を許そうとしないレンに、俺は――


「そうだな。悪い子には〝お仕置き〟が必要だな」

「え?」


 ――レンを翼ごと強引に抱き締めると――


「んっ!」

 

 ――紅をさした彼女の唇に、自身のそれを重ねた。


「……どうだ、反省したか?」

「……うん……」


 ――とろんとした目で、そう返事をしたレンだったが――


 ――「えっと……」と、一瞬躊躇した後――


「……でも、まだ……ちゃんと反省出来てない……かも……」


 ――そう告げると、あまりの恥ずかしさに、目を伏せ、翼をバサバサさせる。


「そうか、じゃあ、もっと〝お仕置き〟が要るな」

「あっ」


 ――俺は、俯いた彼女の顎を指で持ち上げると――


「んっ」


 ――再び〝お仕置き〟したのだった。

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