28.「千年前に実在した伝説のモンスターの正体」

「じゃ、じゃあ、あなたが、この……王子様のモデルになった、伝説のモンスターなんですか?」

「いかにも、そうじゃ」


 本の存在を目の当たりにした事が刺激となったのか、老モンスターは、喋り方がハキハキとして、身体に活力がみなぎったように感じられる。


「わぁ~! あ、あたし、この本が大好きで、この王子様にずっと憧れていたんです! お会いできて光栄です! 嬉しいです! 握手してください!」

「ええとも、ええとも」


 手の代わりに、翼を差し出し、プルプル震える老モンスターの手によって握られるレン。

 握手が終わると、興奮冷めやらぬ様子で、「わぁ! わぁ!」と、バッサバッサと、翼をはためかせる。


 こんなにテンションが上がったレンは、初めて見るな……


 ポイカーゴンと会った時も、嬉しそうではあったが、そこには〝モンスターたちのために尽力して来た者に対する尊敬の念〟があった気がする。


 今目の前にするレンの様子からは、あの時は違う、何かを感じるが――


「あ、舞い上がっちゃって、忘れていました! 失礼しました!」


 ぴょこっと御辞儀したレンが、接客に戻る。


「それで、今日御来店頂いたのは、どのような御用件でしたでしょうか?」


 レンの問いに、老モンスターが答えた。


「ミスリル・アダマン・マンドレ・スープ」

「……え?」


 突然の横文字に、レンが戸惑い、言葉を失くす。


 その言葉の並びに、何か尋常ならざるものを感じた俺は、横から口を挟んだ。


「ミスリル・アダマン・マンドレ・スープって、何の事だ?」

「はぁ~? 〝ミスチル・あやまん・マニピポ・おっふ〟?」

「言うてるか。っていうか、お前がさっき言った言葉だろうが。耳が遠いとかいう次元超えてるだろこれ」


 先刻までちゃんとコミュニケーションが取れていたはずが、再度耳が遠くなる老モンスター。


「ミスリル・アダマン・マンドレ・スープ。ミスリル・アダマン・マンドレ・スープ。ミスリル・アダマン・マンドレ・スープ。ミスリル・アダマン・マンドレ・スープ」


 その後、何故か同じ言葉をうわ言のように繰り返す老モンスターに、


「ど、どうしよう、ラルド?」


 と、レンが救いを求める目を俺に向ける。


「恐らく、ミスリルと、アダマンタイト、マンドレイク、それらを使ったスープを飲みたい、という事だろう」

「え? そうなの?」

「ああ。恐らくな」


 頷いた俺は、


「〝それらを探し出せる眼鏡〟が欲しい、という事だろうな、きっと」


 と、推測した。


「そうだろ、じいさん?」


 俺の問いに、老モンスターは――


「〝ミスチル・あやまん・マニピポ・おっふ〟?」

「いやそれはもう良いから」


 ――再びボケを重ねた。


※―※―※


「店番? ええ、問題ありませんわ」

「ありがとうございます、ジーンさん! よろしくお願いします!」


 ジーンが快く店番を引き受けてくれたので、俺はレンと共に外に出て、老モンスターが欲するものを探すことにした。


 いつも通り、俺はベルトをレンの左脚によって捕まれた状態で、運ばれて――


「えっと、し、失礼します」


 ――老モンスターも、同じように、レンの右脚によって運ばれつつ移動した。

 俺は一度も言われた事の無い台詞を、彼女に言われながら。


 〝探知眼鏡〟を生み出して老モンスターに掛けさせ、俺自身も同じものを着用して、探していく。


「こんな所にあったのね!」


 意外と近場に、ミスリルとアダマンタイトの両方ともあり、〝採掘眼鏡〟で採掘して、採取する事が出来た。


 マンドレイクに関しては、以前一度採った事があったので、場所も把握しており、何の問題も無かった。


 森の中の広場に行き、ミスリル・アダマンタイト・マンドレイク(既に首を斬って殺してある)を煮込んだスープを作る。


 一応、料理眼鏡を使って、鍋・皿・スプーンのみならず、ホワイトシチューのルーも生み出して、それらしく調理して、〝家具眼鏡〟で創造したテーブルの上に置いた。


 が、いかんせん、ミスリル・アダマンタイトといった鉱物とマンドレイクという、海●雄山もビックリなエキセントリックな組み合わせだ。


 一体、どんな反応が待っている事やら。


「えっと……はい、どうぞ」


 レンも、恐らく老モンスター自身が望んだ事とはいえ、それを料理として盛り付けて出す事に抵抗を覚えながらも、両翼で、器用に、スープを入れた皿とスプーンを、彼に手渡す。

 

 それを見た老モンスターは、


「おおお!」


 と、声にならぬ声を上げたかと思うと、「有難く頂くのじゃ」と言って、スプーンで一口、飲んだ。


 すると――


「ぐ……ぐおおおおおおおおおお!!!」


 ――手からスプーンを落とした老モンスターが、胸を掻き毟り、苦しみ出した。


「きゃああああああ!」


 悲鳴を上げ、レンが取り乱す。


「ラルド! 薬よ! 薬を用意しなきゃ! 今すぐスライさんとポイカーゴンさんに、薬を吐いて貰って――!」

「落ち着け。その二匹が吐くのは〝薬〟じゃなくて〝毒〟だ」


 レンがアタフタしている間に――


 ――老モンスターは――


「ぐお! ぐお!!! ぐおおおおおおおおおお!!!!!!」


 ――一際苦しそうに叫んだかと思うと――


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


 ――突如、光り輝いて――


 ――思わず目を閉じた俺たちが、再び目を見開くと――


 ――そこには――


「ふぅ。この姿になるのは、千年振りか」


 ――白髪だが、若々しく、長身で、恐ろしく顔立ちの整った――


「「!?」」


 ――

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