19.「咆哮」
「はあああああああ!」
勇者が、〝スライが一体化した聖剣〟を力強く振るう度に――
「おお」
「すごいわ!」
「なかなかやるイム!」
――押し寄せる毒が切り裂かれて消滅、茶色い土が姿を現す。
その様は、さながら海を割ったモーセのようだ。
「はあああああああ! はあああああああ! はあああああああ!」
立て続けに咆哮しながら剣を振り下ろし、薙ぎ払い、次々と毒を消していく勇者。
「よっ! 毒切り女! 略して〝毒女〟!」
「初めて役に立ったイム!」
「スライが柄を覆っていないと何も出来ないけど、まぁでもよくやってる方スラ!」
「それ、褒めてる? 褒められてる気が全然しないんだけど……」
近くに舞い戻って来たレンとライム、そしてスライからのヤジに、勇者が複雑な表情を見せる。
が、攻撃の手を緩めることは無く、あともう少しで、毒を全て消せそうな勢いだ。
そんな中――
あれ?
先程から掛けたままの〝ステータス眼鏡〟を通して、俺は、ある事に気付いた。
「なぁ、サイコパス」
「ゆ・う・しゃ! 一応、今、命懸けで世界を救おうとしてるんだけど、僕?」
噛み付く権利などないならず者が噛み付いて来るが、当然無視する。
「この方向に向かって、聖剣による斬撃を、思いっ切り飛ばしてくれないか?」
俺は、指で真北――から少しだけ西の方向を、指し示す。
「どうしたって言うのさ? 見た所、何も無いじゃないか」
「いや、ある……というか、いる。今この瞬間も、俺のステータス眼鏡には、そいつのステータスが表示されている」
「!」
勇者が、驚愕に目を見開く。
「ラルド、それって……まさか……!?」
「ああ」
俺は、レンに頷いた。
先刻のレンの問いが、脳裏を過ぎる。
『じゃあ、その呪いを掛けたのは、誰なのよ!?』
俺は、ポツリと呟いた。
「もし、もう一匹、別の魔王がいたとしたら?」
「!」
レンが言葉を失う。
と、そこに、視界に入る毒は既にあらかた消し去った勇者が、
「斬撃だね。よし、分かった。やってみよう」
と、俺が指し示す方向に向かって、聖剣を構えた。
「行くよ! はああああああああああああああああああああああああ!!!」
聖剣による斬撃が、大地を割り、空を切る。
そのまま、どこまでも飛んで行くかと思われた斬撃だったが――
キン。
――高硬度の何かに当たったような音と共に、斬撃は消えて――
――代わりに――
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「「「「!」」」」
――無色透明で何も無かったはずのその場所に――
――突然、小山かと見紛う程の、漆黒のドラゴンが現れて――
――その口から吐き出された大量の毒――否、呪いは――
――勇者が何度も聖剣を振るってやっと取り戻した大地を、一瞬で、黒く染め直して――
「サイコパス」
「ゆ・う・しゃ! 酷いじゃないか、こんな時までちゃんと呼んでくれな――」
「いいから早く」
「分かってるよ! 『
――勇者が〝大規模結界魔法〟を唱えて――
――広大な大地を、淡く輝く魔法障壁――結界が覆い尽くすが――
「あ。間違って、背後に張っちゃった。てへぺろ」
「何やってんのよ! このクソ勇者あああああああああ!」
――俺たちの〝後ろ〟に張られたため、俺たちは結界の〝中〟に取り残されてしまい――
「もう駄目スラあああああああああああ!」
「終わったイムううううううううううう!」
――猛スピードで迫り来る〝猛毒の呪い〟に、呑み込まれる――
――寸前――
――地震が起きたかと思うと――
「へ?」
――俺たちの真下――地面が大きく陥没して――
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「「「「「!?」」」」」
バクン。
――地中から現れたもう一匹のドラゴンによって、俺たちは喰われた。
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