17.「毒だけど、毒じゃない」
「『
俺は、生み出した眼鏡を、魔王スライが毒を吐くために開けている大口の上辺りに掛ける。
――が。
「あ、そこ、〝背中〟スラ」
「口の上に背中って、おかしくなーい?」
え、もしかして、口じゃなくて、お尻から出してるの、その毒?
「じゃあ」
と、手を翳して、反対側に眼鏡を掛けてみると――
「そこは〝お腹〟スラ」
「!!??」
その後も、色々と微調整するのだが、その度に、魔王スライは、違うと指摘して来て――
「そこは〝後頭部〟スラ」
「くっ」
「そこは〝下半身〟スラ」
「え? スライムに〝下半身〟っていう概念があるの?」
「そこは〝十二指腸〟スラ」
「〝十二指腸〟て。人間の俺ですらピンと来ない臓器が、スライムに? しかも、身体の外側についてんの?」
痺れを切らしたライムが、
「ああ、もう! 世話が焼けるイム!」
と、いつまで経っても目の場所を特定できない俺と、毒を吐く方向を宇宙放出眼鏡に向けるのに手一杯らしい魔王スライに、叫び声を上げる。
「眼鏡屋、なんでそんなに〝大事な場所〟の位置を探るのが下手くそイム? そんなんじゃ、初めての夜に、相手から〝そこじゃなイム。もっと下イム。行き過ぎイム。もう少し上イム〟って言われて、呆れられちゃうイム!」
「余計なお世話だ。って言うか、〝眼鏡の位置〟の話題からシームレスに〝下ネタ〟に移行すんな」
ライムは、「全くもう!」と言いながら、うにょーんと身体の前面を伸ばし、記憶共有眼鏡をずらして、魔王スライの目の位置に掛けた。
すると――
「こ、これは――!」
驚愕に目を見開く魔王スライ。
っていうか、そうやって大きく穴が開いてめっちゃ位置が分かりやすくなるんなら、最初から目を見開いておいてくれよ。
「そうだ。それは、俺の記憶だ。それを、映像としてお前に見せている」
魔王スライに見せた映像。
それは、俺が前世で見た〝某有名アニメ〟にて、スライムが無双するシーンだった。
「すごいスラ! すごいスラ! ただのスライムが、こんなに強いスラ! 格好良いスラ!」
それだけじゃない。
他にも、スライムたちが大活躍するアニメのシーンを詰め込んだ。
更に、俺が言っている事が全て真実である事の証拠として、ライムが、ハーピーであるレンの服を溶かして、無力化しているシーンも入れた。
「ラルド……まさかとは思うけど、あたしがライムちゃんに襲われた時の映像は、入れてないわよね?」
「………………勿論、入れていない」
「今の〝間〟は何よ!? 絶対入れてんじゃない! 何してくれてんのよ! この変態!」
顔を真っ赤にして、翼をバッサバッサとはためかせながら、地団駄を踏むレン。
許せ、レンよ。
お前の羞恥心よりも、まずは世界の救済だ。
話を戻すと、魔王がスライムだったという事実を知った際の俺の心の声も、千里眼眼鏡で見た映像と共に、魔王スライが掛けている眼鏡に流した。
まぁ、正確には、それは〝すごい〟ではなく、〝ヤベー。勇者を倒すスライムて〟という心情だったのだが、〝恐るべきスライムだ〟と、スライムの戦闘能力に対して驚きを感じた事は確かなので、今の彼にとっては、褒め言葉だろう。
「すごいスラ! すごいスラ!! 本当にすごいスラ!!! スライム格好良いスラ!!!」
興奮の余り飛び跳ねまくる魔王スライ。
いやだから、毒を吸い取りにくくなるから、止め――
――いや、まぁ、良いか。
それだけ嬉しいんだろうからな。
そして、彼によるスライムへの称賛は、自身への称賛へと変わり――
「スライすごいスラ!!! スライ格好良いスラ!!!」
――ついに――
「スライ、ウルトラ超絶格好良いスラあああああああああああああ!!!!!!!!」
――上を向いて――
――昇天した。
余程の快感だったのか、ビクンビクンと、痙攣している。
そして――
「……スラ!?」
――正気に戻った時には、魔王スライの毒は――
――完全に止まっていた。
「お兄ちゃん!」
「スライさん!」
「やったスラ! やったスラ!! 止まったスラ!!!」
飛び跳ねるスライに近付き、ライムも跳んで喜びを表現する。
まだ体内に残っているらしい毒が、ピュッピュッと時折飛ぶが、ライムはそれを華麗に避けながら、兄が普通のスライムとなった事に対して、全身で喜びを爆発させていた。
「やったスラあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
こうして、〝魔王スライ〟は、〝ただのスライ〟へと戻る事が出来たのだった。
※―※―※
スライが吐いた毒によって、多少大地がまた汚染されはしたが、ほんの一部であり、その後勇者がまた魔法で毒を無効化した。
「よし。これで問題は全て片付いたな」
そう呟いた俺だったが――
「眼鏡屋。僕、気付いた事があってさ。聞いて欲しいんだけど」
「どうした、サイコパス?」
「もう、ヤだなぁ。喧嘩腰は止めてくれよ。もうあんな事しないって」
いや、無理だろう。
あれだけ傍若無人な振る舞いをしておいて、今更〝優しくして〟は通じない。
「で、どうしたのよ、勇者?」
まだその悪漢を〝勇者〟と呼んであげるんだな、レン。
なんて慈悲深い女なんだ……
レンの言葉に、勇者は「実はね。アレなんだけど」と、指を差す。
「アレ?」
「どうしたスラ?」
「何の話イム?」
皆が、勇者の指し示す方向――北方を向くと――
「「「「!」」」」
――全て消したはずの毒が――
――再びこちらに向かって、物凄い勢いで押し寄せてきており――
「勇者」
「分かってる! はああああああああああああああああああああああああ!」
――短時間で必死に魔力を練り上げた勇者が――
「『
――大規模魔法で、迎撃しようとする――
――が――
「そんな!?」
――毒の勢いは、全く衰えず――
その時、俺は、
「これは、ただの毒じゃない……呪いだ」
「「「「!」」」」
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