6.「ベタなモンスター」

 赤色のドレスとティアラ、それに眼鏡で、辛うじてリムガだと判別出来るかどうか、という所だ。


 どうやら、厳しい筋トレメニューを全てこなしたことで、予想以上に筋肉がついてしまったらしい。


 ……いや、これはもう、筋トレっていうか、〝異常成長〟って言うか……


「部下たちも、羨望の眼差しで見てくるガ! お前のおかげだガ! 感謝するガ!」

「……それは良かったな」


 まぁ、本人が幸せそうだし、良いか。


 そして、もう一人――


「ガハハハハハハハハ! 世話になったな!」

「何でお前まで一緒にでかくなってんだよ」


 ――正気を取り戻した〝前国王のギガド〟がいた。


 二メートルだった身長は、三メートルになっている。

 以前とは違って、豪奢な服装をしていた。


「ガハハハ! 〝状態異常〟に陥っていた間は、筋トレをしなかったからな!」

「そんなんで背が伸び縮みしてたまるか」


 物理法則を無視していそうなギガドは、おもむろに――


「見るが良い! すっかり〝状態異常〟も治った! むしゃむしゃむしゃ」

「いや、〝鼻水ドクダミ〟食われたら、〝状態異常〟が治ったかどうか分からねぇよ」


 ――胸元から取り出したドクダミを、流れるような動作で鼻に突っ込み、取り出して食べた。


「貴様は恩人だ! 国民たちも皆、〝状態異常〟が治ったからな!」


 セイレーンが例の歌を歌わなくなったことで、自然と元に戻ったのだろう。


「そうか、それは良かった」


 そこに、以前より大分声が低くなったリムガが、横から口を挟む。


「本当に良かったガ! これは礼だガ!」


 彼女が手渡して来た、ずっしりと重く、大きな革袋の中には――


「おお、でかい。これがちまたで噂の……」


 ――〝大金貨〟があった。

 庶民は一生目にする事が出来ないと言われる〝大金貨〟が、百枚も。

 日本円に換算すると、合計でざっと十億円、といった所だ。


「見て、ラルド! だ、大金貨よ! それも、山のように!」


 レンよ。

 目を輝かせるのは良い。

 ただ、涎を垂らすのは、やめなさい。


「こんなに、良いのか?」

「当然だガ!」

「ガハハハハハハ! 国を救ったのだからな! 少ないくらいだ!」


 そうか。

 まぁ、貰えるのものなら、ありがたく貰っておこう。


 ちなみに、ギガドいわく、


「国の統治は、このままリムガに任せる事とした!」


 との事だった。


 自分が状態異常に陥っている間に、必死に立ち回った娘の手腕を評価したのだろう。

 と思ったのだが――


「ガハハハハハハ! この筋肉なら、任せられる!」


 ――決め手は、筋肉だった。


 ……筋肉ヤベーな。

 王位継承するかどうかも、筋肉で決まっちまうのか……


 そんなやり取りをした後。


 二人が、


「さらばだガ!」

「じゃあ、達者でな!」


 と、ワイバーンに乗って、舞い上がると――


「眼鏡屋!」


 ――空の上から、リムガは――


「お前の眼鏡、最高ガ!」

「!」


 ――親指を立て、満面の笑みを浮かべた。


「良かったわね、ラルド!」

「ああ、そうだな……」


 国を救った、か……

 やっぱ、眼鏡はすごいな。これからも広めていこう。


※―※―※


 その翌日。


「ふんふふ~ん♪」


 レンは、何故か上機嫌だった。


 時は少し遡って。

 昼時になり、レンが、


「一緒に働いているんだもの! コミュニケーションは大事よ! だから、昼食も一緒に食べた方が良いと思うわ!」


 と、伝えて来たので、「ああ、別に良いと思うぞ」と答えたら、「やったー!」と両手を上げた後、「あっ」と、素に戻って、「コホン。まぁ、あくまでも、仕事のためだけどね!」と、念を押していた。


 そして、「あ~ん」を所望したので、朝食・夕食時と同じように、食べさせていたら、どういう訳か、ニコニコと嬉しそうだったのだ。


 まぁ、店舗スペースに誰か来れば直ぐに分かるように、〝感知眼鏡〟で常に感知しているので、二人が同時に食事を取っても、接客に問題は無いしな。


 ……というわけで、理由は分からないが、それ以来上機嫌だったレンが、鼻歌を歌いながら、店の外――玄関前の掃き掃除をしにいったのだが――


「きゃああああああああああ!」


 突然、レンの悲鳴が聞こえてきた。


「どうした!」


 慌てて、俺が外に飛び出すと――


「いやああああああああああ!」

「あ、そういう〝ベタ〟なのもいるんだな」


 ――レンは、〝〟に襲われて、半裸状態になっていた。

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