7.「行方不明の兄を探す妹」

「きゃああああ! ラルド、見ないで! でも助けて! でも見ないで!」

「無茶言うな」


 縄で縛られたかのように、翼を広げたまま動けない様子のレンが叫ぶ。

 俺は手を翳して――


「『防御プロテクト眼鏡グラッシーズ』」

「!」


 ――眼鏡で防御魔法を掛けて、レンを襲っていたスライムを吹き飛ばす。

 と同時に、レンの眼鏡に、〝防御眼鏡〟の機能を付与しておいた。


 今までは、俺がすぐ傍にいるから、俺が守れば良いと思っていた。

 が、今回のようなイレギュラーな事態も今後またあるかもしれないしな。


「『服飾クロージング眼鏡グラッシーズ』」


 ほとんど溶けてしまっていたレンの服を、服飾眼鏡で再生する。

 よし、これで問題は全て解決し――


「見たでしょ!」


 もう服は元通りになったというのに、何故かレンが、自身の身体を翼で隠しながら、真っ赤な顔で俺をにらみ付ける。


「見てない」

「ウソ! 本当は見たくせに!」

「いや、本当に見てない。辛うじて布切れが残っていたから、ギリギリ見えなかった」

「ほら、やっぱり見たんじゃない! この変態!!」


 じゃあ一体どうしろと。


「変態って言うなら、俺じゃなくて、このスライムに言えよ」


 バラバラになって吹っ飛んでいたスライムが、また寄り集まり、一つの形を成す。

 膝辺りの大きさつ赤色の楕円形となったスライムは――


「服を溶かしちゃって、ごめんなさイム」


 ――身体の前半分を引き伸ばして地面につけると、また戻した。

 恐らく、〝頭を下げた〟のだろう。


「でも、ライムは変態じゃなイム。だって、ライムは雌だかライム」

「いや、〝同性だから服を溶かしてもセーフ〟とはならんだろ」


 人間なら完全にアウトだ。

 モンスターだって、アウトに決まって――


「女の子同士なら、問題ないわね!」

「良いのかよ」


 どうやら、良かったらしい。


「で、どうしたんだ? まさか、わざわざ服を溶かしに俺たちの店まで来た訳じゃないんだろ?」

「実は、ライムは、相談があるイム……」


 何やら深刻そうな顔(?)をしていたので(どこが顔なのか分からないが)、取り敢えず店の中で話を聞くことにした。


※―※―※


 テーブルの椅子――に座ると、小さ過ぎて見えないので、テーブルの上に「ぷにょん」と飛び乗ってもらって、話を聞くことにする。


 「それで、相談ってのは、何だ?」と、椅子に座った俺は聞いた。


 ライムは、レンが出したお茶を〝コップごと〟体内に取り込んで消化しながら、答えた。


「〝兄を探し出せる眼鏡〟が欲しイム!」

「行方不明者探しか……」

「もう長い間、兄のスライは、行方不明イム……」


 なお、先程レンに襲い掛かった時は、必死に兄を探し求めるあまり、


「店の関係者イム! 助けて欲しイム! 早くイム! 一刻も早くイム!」


 という感じで、暴走してしまったらしい。


「あちこち探したけど、全然見付からなイム……」


 落ち込んだ様子のライムに同情したらしく、レンが、


「ラルド! 力になってあげて!」


 と言いつつ、ライムの身体を翼で撫でて慰めようとする――も、先程の一件を思い出して、触れる寸前で止めた。


 うむ。ちゃんと学習しているな。

 偉い偉い。


「勿論だ。今すぐ眼鏡を出そう」

「本当イム!? ありがたイム! 感謝するイム!」


 ライムの顔(?)が、パァッと明るくなった。


 俺は、〝探知眼鏡〟と〝千里眼眼鏡〟の機能を併せ持った眼鏡を生み出して、ライムに掛けてやる事にした。どこが目なのかが全く分からない彼女に。


「ここで良いか?」

「もうちょっと右イム! 今度は行き過ぎイム! もう、何で分からなイム?」


 分かるかー。


 何だろう、〝目隠し〟をしていないのにもかかわらず〝福笑い〟をしているような、このもどかしい〝手探り感〟は。


 苦労しつつも、何とか眼鏡を掛けたライムに、俺は説明をする。


「探したい相手の名前・見た目・魔力のいずれかが分かれば、その眼鏡は、世界中のどこにその相手がいようが、必ず見付け出す」


 「ちなみに、操作時は、声でも、脳で考えただけでも、その眼鏡は反応するからな」と付け加えながら、ふと俺がライムを見ると――


「………………」

「?」


 ――ある方向を向いた彼女は、プルプルと小刻みに震えていた。


 心配したレンが、


「どうしたの、ライムちゃん?」


 と、訊ねるが――


「……そ、そんな……!? ……こんなの、嘘イム! 嘘イム! 嘘イム!」


 聞こえているのかいないのか、ライムは、震える声で、うわごとのように繰り返す。


「……ラルド……」

「ああ」


 不安そうな表情のレンに頷いた俺は、現在ライムが掛けているのと同じ眼鏡を生み出して、ライムの兄〝スライ〟の名前で探知しつつ、ライムと同じ方向を見てみると――


「!」


 驚愕に目を見開く俺に、レンが「どうしたの?」と問う。


 俺は――


「ライムの兄が、になってる……」

「!?」


 ――と、答えた。

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