s-KILL-er ~殲滅スキル「シリアルキラー」で無双できるけど、一日一つは命を奪わないと気が狂いそうになる!善良な人うっかり殺すのはダメだって!~
第二章(04) 初任務で勝手に単独行動してる人がいるのですが?
第二章(04) 初任務で勝手に単独行動してる人がいるのですが?
* * *
「ここがダンジョンですか……」
『ペルアールの木立』
目の前のそれは、見た目は確かに木立といった様子でした。森のように鬱蒼としてはいません。ただ雰囲気が妙でした――木々の向こう側がどこまでも続いているように見えるのです。その上、何かが潜んでいる、そんな気配もあります。
「き、緊張しますね……」
「大丈夫ですよ! ここはそんなに強い魔物も出ませんし、『耀力』による空間異常……えっと、ダンジョンとしての規模もそんなに大きくないので」
マルタンさんが教えてくれます。間違いなく私より年下なのでしょうが、冒険者としてはマルタンさんが先輩です。そう教えてもらえると、安心します。
「それじゃあ、行ってみましょうか――」
何より、私にはいま、仲間がいるのです! マルタンさんは色々教えてくれて親切ですし、後ろのキセラさんも、ほとんどお喋りしてくれませんが……って。
「キセラさんがいない!」
「ふん、馬鹿らしい……」
どうしてか、ダンジョンの方から声が聞こえました。向きなおれば、キセラさんがもう剣を抜いて先に向かっていました。
「キセラさん! 待ってくださいよぉ!」
「言っておくが、あたしはお前達と一緒に行動するつもりはない」
「えぇ……? でも私達、チームで……」
そんな私の声も聞かずに、キセラさんは先へ向かいます。物陰から獣のような魔物が飛び出したかと思えば、キセラさんは握っていた剣を一振り。魔物を両断。そうして灰色のポニーテールを揺らして、先へ消えていきます。
「待って……待ってください!」
残るのは私の虚しい声だけ。先からは魔物のものでしょう、ぎゃあぎゃあと、けたたまし声が聞こえます。
「……あの、冒険者のチームって、こんな感じなんですか?」
「チームによると思うけど、基本的には集団行動です……」
念のためマルタンさんに聞いてみると、やはり違うそうです。
「ただキセラさんは……僕も詳しくは知らないけど……いっつも単独行動に出るから、チームを組んでくれる人がいないって聞いたことがあります……感じも、こう言っちゃうとアレだけど、わ、悪い、ですし……」
と、すぐ近くの茂みが揺れたかと思えば、黒い影がマルタンさんへばっ、と。
「ぎゃっ!?」
鋭い爪と牙を持った、大きなウサギのような魔物でした。ぎょろぎょろした目はしっかりマルタンさんを狙っていて、でもその間合に、気付けば私は滑り込んでいて。
ナイフの一閃が、魔物を払います。弾かれたように魔物は赤色を散らしながら転がっていきました。何度かバウンドしたあとで、ひくひく震えて、やがて動きを止めます。
「――ふ~~~~っ……」
斬れた。
魔物を斬れました。やりました。
……私は、冒険者になれたのです。
生き物を……魔物を斬るために。
そして初めての任務が始まったのです!
……たくさん、魔物を斬れる!
「一人じゃ危ないかもしれないです! 追いましょう!!」
キセラさんに続いて、私もダンジョンの中に入ります。マルタンさんも頷いて一緒に来てくれます。
――木立というには、そこはやはり、妙な場所でした。入る前とは、空気が変わったというか。空はさっきと変わっていないのに、ここに入った途端、違うものになった気がします。そして間違いなく普通の動物のものではない声に、気配。
実際、茂みが揺れたり、木々が揺れたりして飛び出してくるのは、動物ではなく魔物でした。先程見たウサギのような魔物に、鳥のような魔物。大人しくこちらを見てじっとしているものもいますが、その瞳はぎらぎらしていて、動き出したかと思えばやはり襲いかかってきます。
けれども、思ったより強くありませんでした。襲い掛かってきたのなら、弾く。そんな具合にさくっと倒していきます。
ただ。
――なんか、違う気がする……。
すっと斬れて、確かに気分はいいのですが、なんか物足りないというか……。
蜘蛛を相手にした時に、似ている気がします。
それじゃあ、たくさん斬ればすっきりしますかね……。
……なんというか。
……もっと人っぽいもの、いないかなっていうか……。
人の形をしたものに、ナイフ刺したいなって……。
「シャールカさん……強い、ですね……」
「……」
「シャールカさん?」
「――はっ」
一緒に来ていたマルタンさんの声が、全く聞こえていませんでした。振り返れば、マルタンさんはぎゅっと杖を握っています。
「なんか、思ったよりすっきりしな……えーと手応えない、というか、弱いですね! ここの魔物!! 緊張して損しちゃいまし――」
苦笑いを浮かべた、次の瞬間でした。後ろに気配を感じたかと思えば、ナイフを握っていた手に、鳥型の魔物のかぎ爪が走ります。
「しま……っ!」
手の甲に赤い線が走り、思わず私はナイフを落としてしまいました。ナイフは地面を滑って離れていきます。
取りに走ろうとしますが――鳥型の魔物は仲間を引き連れて旋回、戻ってきます。
「危ない!!」
そこにマルタンさんが割り込み、杖を構えれば、大きな魔法陣が目の前に広がりました。鳥の魔物達はばんばんそこにぶつかって落ちていきます。けれどもダメージは受けていないようで、すぐに羽ばたけばまた襲い掛かってきます。マルタンさんはさらに魔法陣を展開してガード。
「シャールカさん、早く、武器を……! 取りに行けますかっ!?」
「ちょっと、ちょっと待ってぇ……!!」
取りに行きたいのですが……魔物はがんがん襲って来ますし、自分達を守っているマルタンさんの魔法陣が、その、ちょっと邪魔……で、素早く動けそうにありません。
しかし武器がなければ、魔物には勝てません!
冒険者なのです、多少の怪我、覚悟はしていました!!
「いった……!」
魔法陣の隙間から抜けて、ナイフの元へ。結局魔物に襲われて、頭に蹴りを一発食らってしまいます。
でもナイフを掴めばこちらのものです!!
襲い掛かって来た鳥型の魔物の片翼を、振り下ろしたナイフで斬り落としてやります。魔物はそのまま地面に落ちていきますが、落ちる前に残っている片翼も、切り上げのナイフでさくっと削いであげます。料理してるみたい。
ぎゃあぎゃあと、魔物達が騒ぎ出します。怒った様子でマルタンさんから私へ標的を変えますが、ナイフが拾えればもう大丈夫。あとは流れ作業です、あちらからこちらに来てくれるのですから。
――地面には、いくつもの魔物の死体が転がりました。
「シャールカさん、大丈夫ですか!? き、傷薬……傷薬……!」
やっと魔物がいなくなって、マルタンさんが慌てて私のところにやってきます。肩にかけていた荷物を地面に下ろして、中を漁り始めます。
「――魔法使いのくせに、簡単な治癒魔法も使えないのか」
「あっ、キセラさん!」
そんな声が聞こえたかと思えば、茂みのキセラさんの姿がありました。私は笑って手を振ります。
「本当に防御魔法しか使えないのか、役立たずだな」
が、キセラさんは冷たくマルタンさんを見つめていました。
「守ってばかりで自分で進めもしない――むしろ迷惑、足手まといだな」
その瞬間、マルタンさんの方がびくりと震え上がったのを、私は確かに見ました。顔を真っ青にして、きゅっと唇を結んで。
だから。
「で、でも私は助かりましたよ!」
とっさに私は、言い返していました。
「足手まといって言うのなら、ちょっとは立ち止まって待ってくださいよ! キセラさんが速すぎるんです!!」
確かに先程のマルタンさんは、守ることばかりで、なかなか動けない状態でした。でもマルタンさんがいなければ、ナイフを落としてしまった私は、派手に襲われていたのです。
そしてキセラさんは勝手に動きすぎです!
「ピクニックに来たわけじゃないんだ――冒険者を舐めているのか?」
キセラさんはそう言うと、また一人で先に行ってしまいました。怪我をしている様子はありませんでしたが、剣にはしっかり血がついています。魔物と戦っているのでしょう……。
……キセラさん、一人で魔物をどれくらい倒しているのでしょうか?
「……ごめんなさい」
ふと疑問に思っていると、マルタンさんがずい、と傷薬を渡してきました。ただマルタンさんは俯いていて。
「僕、キセラさんが言った通りで……守ることしかできないんです。みんなが前に出て魔物と戦ってるのに、僕はずっと守ってばっかりで、前に出られなくて……いっつも怒られるんです、守っても逆に動けなくしちゃって『逆に迷惑だ』って……」
更に縮こまってしまうマルタンさんは、本当に弱々しく見えました。さっきまで、まさに先生のように色々教えていてくれたマルタンさんは、どこに行ってしまったのでしょうか。
エルネストさんが言っていました。
マルタンさんはハブられていたと。
でも私は。
――マルタンさんに、助けてもらったのです。
「それじゃあ、一緒に進みましょう!!」
マルタンさんの腕を掴みます。歩き出します。
「攻撃は私が頑張りますね! ピンチになったら、マルタンさん、助けてください! あとわからないことが出てきたら聞きますから、教えてくださいね!!」
「えっえっ、シャールカさん、ちょっと!!」
「キセラさん、また先に行っちゃいました! 追いつかないとですねっ!!」
キセラさん、どんどん魔物、倒しちゃって……これ、私が斬る分、残ってる?
何はともあれ、私達はチームなのです!
仲間を気遣い、心配するのは、きっと当たり前のことなのです!!
それに初めての任務です。初めてだからたくさん斬りた……頑張りたいですし。
「シャールカさん……優しいんですね」
進んでいくと、不意にマルタンさんが小さく笑いました。
「『連続殺人』持ちだからきっと怖い人だって、思ってました……」
「へっ? えへへ……」
――斬りたい殺したいって気持ちは、あるんですけどね。魔物を。
ただ……やっぱりはっきり言っちゃうと怖がられるような気がして、言ってはいませんが。
黙っててよかった~~~~!!!! 昨日、冒険者協会のロビーで向けられた目、すごく嫌でしたもん。
これから一緒に頑張っていく仲間に、そんな風に見られたくはありません。
「さ、さあ急ぎましょう!! キセラさんが全部の魔物倒しちゃ……いえ、怪我する前に!!」
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