s-KILL-er ~殲滅スキル「シリアルキラー」で無双できるけど、一日一つは命を奪わないと気が狂いそうになる!善良な人うっかり殺すのはダメだって!~
第二章(05) このために冒険者になったのですが?
第二章(05) このために冒険者になったのですが?
* * *
「――おかしい」
キセラさんを追って、どれくらいが経ったでしょうか。不意にマルタンさんが目を丸くしました。
「このダンジョン、おかしいです! ここはこんなに大きなダンジョンじゃないですし、魔物もこんなにいるはずがありません!」
「そうなんですか? ……そういえば私達、そういうのを調査するために来たんでしたよね?」
「はい、そうです。異変が起きてます、これは報告しなきゃ……シャールカさん、気をつけて。いまここは、冒険者協会が想定していたよりも危険なダンジョンになっています。強い敵や、おかしなことも……」
思ったより広いなとは思いましたが、それが異変だったとは。魔物も、これまで結構倒したなとは思いました。
……全部弱かったですし、手応えもなくて困っていたんですけどね。
冒険者の仕事って……もしかして、思ってたのと違う?
いえ、初めてのお仕事なのです! そのうち思っていたような仕事がくるかもしれません。
「あっ、キセラさん! やっと追いつきましたよ!」
進んだ先に、ようやくキセラさんの姿がありました。そのキセラさんの前には、光る何かが浮いています。
「何ですか、それ? 光っててきれい~!」
「『
私の後ろで、マルタンさんが悲鳴みたいな声を出しました。
「げっこーすいしょー?」
「『魔結晶道具』の一種です。比較的発生率が高いものなんですけど、基本的には規模の大きな『淀み』……ダンジョンでしか発生しないもののはずなんです」
ぎゅっと杖を握り、マルタンさんは教えてくれます。
「『月光水晶』は『淀み』の不純物そのもの……周辺に更に空間異常を起こすだけじゃなくて、魔物を凶暴化させる力もあるんです」
「このダンジョン、妙だとは思ったが、こいつの仕業だったか」
キセラさんは剣を構えたかと思えば、『月光水晶』にその刃を振り下ろしました。光が瞬くように消え、まるで氷砂糖のようなかけらが地面に転がります。
「どれもこれも、結局は弱い魔物だったがな」
そうしてようやく、キセラさんは剣を収めました。
けれど私は思い出します。
「えっ? 壊しちゃった!? 私達のお仕事って……魔結晶道具の回収もありませんでしたっけ?」
慌てて書類を取り出して確認! あります、「魔結晶道具の回収」!
……壊しちゃいましたが!?
そう思っていると、マルタンさんが前に出て、
「『月光水晶』は破壊しちゃって大丈夫です。逆に壊さないといけないんです。そのまま街に持ち帰ると、今度は街がおかしなことになります……壊して欠片を持ち帰るんです」
懐から袋を出したかと思えば、地面に転がった『月光水晶』のかけらを集め始めます。
「数日後には元の『ペルアールの木立』に戻ると思います! 回収したら帰りましょう!」
「勉強になります! 私も手伝います!」
私もマルタンさんにならって、かけらを集め始めます……が、その横を、キセラさんが通り過ぎていきます。
「ちょっと! キセラさんっ! また一人で行っちゃうんですか!?」
「言ったはずだ、一緒に行動する気はない、と」
「そんな、冷たい……」
キセラさんは、どうやら一人で先に帰るつもりのようです。魔結晶道具の回収もお仕事なのに……これって、任務放棄じゃないですか? それとも討伐担当ってことですか?
キセラさんのこと、何もわかりません!
「なんで一人がいいんですか?」
思い切って聞いてみますが、キセラさんはどんどん遠のいていきます。だから、
「キセラさん、一人がいい理由ってなんですか? 教えてくださ――」
「静かにしろ!」
不意に大声を出されて、さすがにびくり。
でも、怒鳴られたようには感じられませんでした。キセラさんにはどこか、はっとしたような様子があったのです。きょろきょろ見回したかと思えば、固まります。
「……なんの音だ?」
音? 何も聞こえはしませんが。
もう魔物の声も聞こえません。道中、キセラさんが倒してしまいましたし、残っていたものも私が倒してしまいましたし。思わずマルタンさんと顔を見合わせます。
……キセラさんは、きっと、耳がいいのでしょう。
数秒後、妙な音が聞こえてきました。マルタンさんも聞こえたのでしょう、顔を見合わせたまま、お互いにはっとします。まるで迫って来るかのような音。
でも、どこから?
「……揺れてる?」
マルタンさんが地面に視線を向けます。
ぼこんっ、と。
その地面から、血色の悪い腕が飛び出してきました――。
「えっ? えっ? えっ?」
何が起こっているのか、わかりません。地面からは次々腕が飛び出し、そして頭が出てきて身体が出てきて……人っぽい何かが出てきて。
「ぎゃああぁぁぁああ~~~~~~~~~~~~~~っっ!?!?!?!?」
血色が悪く、ぼろぼろな人が何人も! 腕がない人や足がない人もいます、頭半部ない人だって!
い、生きているんですか、これ。
しかも。
「すごい臭い~~~!!!!! 気持ち悪い~~~~~!!!!!!!!」
間違いなく腐敗臭! 腐ってます!
あ~この人達、死んでる! 死んでるのに動いてうーうー言ってる!!
「ゾンビです!! これ、ちょっと、多すぎる……!!!」
マルタンさんの声が聞こえますが、もう姿が見えません。ゾンビが多すぎます!
「――罠だったか!」
かろうじて、キセラさんの姿は見えました。
「よそから『月光水晶』をここに持ってきて……誰かが破壊したら、その者をゾンビに襲わせる……!」
キセラさんは剣の柄を握りますが、次の瞬間、顔をくしゃくしゃにさせました。
「あ~~~~!!!! 無理!!! 無理!!! くっさ!!! 鼻おかしくなる~~~~っ!!!!」
鼻をつまんだかと思えば、その場にしゃがみこんでしまいました。さっきまであんなに冷たくツンツンしていたキセラさん……まるで子犬みたいになってしまいました。本当に「くぅーん……」と言っています。
そんなキセラさんに覆いかぶさるように、のろのろと、ゾンビ達が。
「キセラさん、危ない――」
たん、と地面を蹴って、先へ進んで。
その際ナイフを抜きながら、ゾンビの胴体に走らせて。
――さっきまでのウサギや鳥とは、全く違う感覚。
人の形をしたものを、斬った。
「あっ、これ……」
キセラさんに襲い掛かってきたゾンビは、腐った血を胴体から噴き出しながらくずおれます。返り血が私の白い服に飛び散ります。
倒れたゾンビはばたばた手を動かし、もう一度立とうとしていました。だからもう一振り。動きを止めます。斬ります。
殺します。
「いっぱい出てきたし、気持ち悪いと思いましたけど……全然斬れちゃいますね……」
いける。
斬れる。
やれる。
たくさんいるけど……全部、殺せる。
思うままに、やりたいままに。ナイフを滑らせればゾンビの肌を、血管を、骨を断ちます。うーうーというゾンビのうめき声が濁り、腐ったような血が傷からも口からも溢れ出します。
まだ立ってる。
それじゃあ、もう一回斬ろう。
人の形をしたものを斬るのが、倒れていくのが、血が飛び散るのが、楽しい――!!
「これこれこれこれ!!!!! こういうのがやりたかったんですよ!!!!!」
一体倒してもゾンビは次々にやってきます。おかわりはたくさんある!! 斬り放題です!!! 腕を切り落としてみよう、と思ってうっかり足を斬ってしまっても、次のゾンビがいます!!
「わぁ……すごい、斬ったのにまだ動くんですね? うーん……」
しかもゾンビって、足とか腕を斬ってもまだ動く!!!! 一体だけでもたくさん遊べる!!! すごい!!!!
でもでも、冒険者として、魔物は完璧に倒さなくてはいけません。忘れちゃいけません、私は冒険者なのです!
「あっ、じゃあ、動けなくなるまで斬ればいいんですね!!!!!」
なぁんだ、簡単なことじゃないですか!!!!
それじゃあ開始! 上から下へ! 下から上へ! 右から左でまた右に!!!!!
目の前で動くものに、とにかくナイフを滑らせる!!!
「しゃ、シャールカさん……」
「――速すぎる。これが『連続殺人』……こんな大量のゾンビ、上級冒険者でも一人で対応できるか怪しいのに……」
マルタンさんとキセラさんの声が聞こえましたが、そんなことよりもゾンビです!!!
一体を斬る、その勢いでついでにもう一体!! さらにもう一体!!!
斬って、斬って、斬って―――。
全部斬る。
全部殺す。
「……あー、せっかくのかわいい服がどろどろっ」
……気がつけば、白かった服は、ゾンビの血で汚れていました。黒っぽいですが、ちゃんと血らしい赤色があります。
「でも……白に赤って映えますね!! まあ腐った血みたいですけど!!!」
頬に飛んでいた血を、手の甲で拭います。身体が熱い、息も上がっています。でも、すごく、いい感じです。
まだいける。まだ足りない。
「いっそ真っ赤に染めちゃったら――」
このために冒険者になったのです。踏み出せば、靴の下でびちゃりと音がなりました。
まだ動くものは、いる――。
ぎん、と大きな音が響きました。
「あー……」
ナイフが、肉を斬ってない。
魔法陣の盾が、動きを止めてる。
その向こう側には、マルタンさんの姿。
「あは、マルタンさん? すみません、ゾンビと勘違いしました!!」
「シャ、シャールカさん、ナイフを……」
マルタンさんについては『斬れる』と思うのですが、マルタンさんのこの魔法陣……防御魔法でしたっけ? 思っていた以上に硬いんですね。どんなに力を入れても、割れそうにありません。
そもそも、力を抜かなくてはいけないのですが。
「あのー、そのー、えへへ、なんていうか……力、抜けなくて……」
どんどん力が入っていきます。やめなきゃいけないのに。もうゾンビはいないのに。
ぴしりと、魔法陣にひびが入ります。
「ひ、ひっこめなきゃ、いけないの、わかってるんですけどぉ……」
止められない。
身体が勝手に動く。獲物が目の前にいる。
――ダメダメ。
「あー……ごめんなさい」
人を殺さないために、冒険者になったのに。
「い゛っっっ!?」
後頭部に鈍い痛みを感じたのは、私がマルタンさんの魔法陣を割ったのと同時でした。その瞬間、ナイフを落とし、倒れてしまいました。
薄れていく意識の中、最後に私は、剣の鞘を持ったキセラさんの姿を見ました――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます